人工衛星 人工衛星の概要

人工衛星

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/30 01:26 UTC 版)

GPS衛星の軌道アニメーション

人類初の人工衛星は、1957年ソビエト連邦が打ち上げたスプートニク1号である。2024年4月時点で約9000基が運用されており、2022年だけで2368基が打ち上げられた[2]。運用を終えた多数の人工衛星は墓場軌道への移動させられたり、大気圏再突入により消失させられたりしたほか、一部はスペースデブリ化している。

用途は多岐にわたり、主要な役割として軍事衛星偵察衛星など)、通信衛星放送衛星地球観測衛星航行衛星気象衛星科学衛星アマチュア衛星などがある。

有人宇宙船宇宙ステーションスペースシャトルも広義の人工衛星に含まれ、アメリカ航空宇宙局(NASA)等の人工衛星の軌道データに掲載もされるが、これらについて触れる際には人工衛星とは呼ばれないのが一般的である。

地球周辺の宇宙空間を周回し続けていても、目的を持たない使用済み宇宙ロケットの残骸や人工衛星の破片などはスペースデブリとして区別される。また、惑星以外の軌道(月周回軌道太陽周回軌道)を周回する人工天体は宇宙探査機と呼ばれ、一般に区別される。

人工衛星は地球を周回する軌道にあるものが大部分であるが、惑星探査目的で、太陽系にある他の惑星、火星土星などの軌道上にも観測機がいくつか到達しており、各惑星の人工衛星となっている。これらは惑星の観測を行ったり、火星探査機などのように他惑星の表面に着陸した宇宙探査機からの各種観測データを地球まで中継送信している。

歴史

構想

人工衛星がフィクション内で初めて描かれたのはエドワード・エヴァレット・ヘイル英語版の短編小説、『レンガの月英語版』である。この話はThe Atlantic Monthly にて1869年からシリーズ化された[3][4]。この概念が次に登場したのは1879年、ジュール・ヴェルヌの『インド王妃の遺産英語版』である。

1903年ロシア帝国コンスタンチン・ツィオルコフスキーが『反作用利用装置による宇宙探検』(ロシア語: Исследование мировых пространств реактивными приборами)を出版した。これは、宇宙船を打ち上げるためのロケット工学に関する最初の学術論文だった。ツィオルコフスキーは地球の回る最小の軌道に求められる軌道速度を8km/sと計算し、液体燃料を使用した多段式ロケットならば達成可能であることを示した。また、彼は液体水素液体酸素の使用を提案した。

1928年、スロベニアヘルマン・ポトチェニク英語版The Problem of Space Travel — The Rocket Motorドイツ語: Das Problem der Befahrung des Weltraums — der Raketen-Motor)を出版し、宇宙旅行と人間の永続的滞在性について述べた。彼は宇宙ステーションを発想し、ステーションの静止軌道計算を行った。彼はまた、人工衛星が平和的・軍事的に地上の観測に使用できることを詳細に記述し、宇宙空間の特殊な状態が科学実験に有意であることや、静止衛星を通信などに利用できることについても述べた。

1945年、アメリカ合衆国(米国)のSF作家アーサー・C・クラークは雑誌ワイヤレス・ワールド英語版上で、通信衛星を用いたマスコミュニケーションの可能性を詳細に記述した[5]。また、クラークは人工衛星打ち上げの計画、可能な衛星軌道などについても調査し、3機の静止軌道衛星で地球全体をカバーすることを提案した。

人工衛星の誕生

スプートニク1号:世界初の人工衛星

第二次世界大戦中にナチス・ドイツが開発したV2ロケットの技術とその技術者を取り込んだアメリカソ連のロケット技術は急速な進歩を成し遂げ、人工衛星が現実のものとなりつつあった。

アメリカは1945年より海軍航空局英語版の下、人工衛星の打ち上げを検討してきた。1946年5月にアメリカ空軍ランド研究所が提出した報告書『実験周回宇宙船の予備設計』(Preliminary Design of a Experimental World-Circling Spaceship) には「適当な装置を搭載した人工衛星は20世紀の最も強力な科学ツールの一つになりうる」と述べられており[6]、人工衛星が軍事的重要性を持つとは思っておらず、むしろ科学的、政治的、プロパガンダ的なものと当時見なしていた。アメリカ国防長官チャールズ・E・ウィルソンは1954年に「私は国内の人工衛星計画を知らない」(I know of no American satellite program) と述べた[7]

1955年7月29日、ホワイトハウス1958年の春までに人工衛星を打ち上げると発表した。これはヴァンガード計画として知られるようになる。同年7月31日、ソ連は1957年の秋までに人工衛星を打ち上げると発表した。

ソ連のセルゲイ・コロリョフと助手のケリム・ケリモフ英語版が率いるスプートニク計画が始まり、1957年10月4日初の人工衛星「スプートニク1号」が打ち上げられた[8]。スプートニク1号はその軌道変化を分析することによって地球の大気上層の密度の確認に役立ち、電離層無線信号外乱のデータを提供した。衛星の機体は加圧された窒素で満たされており、地球に送信された温度データから隕石が機体表面を貫通し、内圧が低下したことがわかった。これは初の流星物質の探知であった。

この突然の成功がアメリカにスプートニク・ショックを引き起こし、その後のアメリカとソ連の熾烈な宇宙開発競争に繋がっていった。

スプートニク1号から3年半が経過した1961年6月、アメリカ空軍は米国宇宙監視ネットワーク英語版のリソースを利用し、115の人工衛星の目録を作成した[9]

宇宙監視網

米国宇宙監視ネットワーク (SNN) は1957年より地球周辺の人工物を追跡しており、2008年時点で8,000以上が対象となっている。軌道上に存在する人工物は数トンの人工衛星から5キログラムのロケットの部品まで様々で、SNNが監視している人工物は直径10センチメートル以上である。これらの7パーセントは運用中の人工衛星であり、それ以外は全てスペースデブリである[10]

アメリカ戦略軍は主に活動中の衛星に関心を持つが、弾道ミサイルの接近と誤認しないように、再突入するであろうスペースデブリも追跡している。「北アメリカ航空宇宙防衛司令部」(NORAD)も参照。


注釈

  1. ^ 高度が高くなれば重力の影響が小さくなるので、より低速(小さい遠心力)で周回できる。例えば高度約36,000 kmの静止軌道では約 3.1 km/sで人工衛星(静止衛星)となる。

出典

  1. ^ 第12回『秒速7.9Km』[リンク切れ]北海道大学 北大リサーチ&ビジネスパーク
  2. ^ 増える人工衛星 天文観測に支障/事業者の規制なく 「光害」対策へ議論朝日新聞』朝刊2024年4月26日(教育・科学面)同日閲覧
  3. ^ Rockets in Science Fiction (Late 19th Century)”. マーシャル宇宙飛行センター. 2008年11月21日閲覧。
  4. ^ Everett Franklin Bleiler; Richard Bleiler (1991). Science-fiction, the Early Years. ケント州立大学出版. pp. 325. ISBN 978-0873384162 
  5. ^ Richard Rhodes (2000). Visions of Technology. Simon & Schuster. pp. 160. ISBN 978-0684863115 
  6. ^ Preliminary Design of an Experimental World-Circling Spaceship”. ランド研究所. 2008年3月6日閲覧。
  7. ^ Alfred Rosenthal (1968). Venture Into Space: Early Years of Goddard Space Flight Center. NASA. pp. 15 
  8. ^ “Kerim Kerimov”, Encyclopædia Britannica, http://www.britannica.com/EBchecked/topic/914879/Kerim-Kerimov 2008年10月12日閲覧。 
  9. ^ David S. F. Portree; Joseph P. Loftus, Jr (1999年). “Orbital Debris: A Chronology”. ジョンソン宇宙センター. pp. 18. 2000年9月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年11月21日閲覧。
  10. ^ Orbital Debris Education Package”. ジョンソン宇宙センター. 2008年4月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年3月6日閲覧。
  11. ^ Grant, A.; Meadows, J. (2004). Communication Technology Update (ninth edition ed.). Focal Press. pp. 284. ISBN 0240806409 
  12. ^ Workshop on the Use of Microsatellite Technologies”. United Nations. pp. 6 (2008年). 2008年3月6日閲覧。
  13. ^ 小型宇宙衛星技術競争 ―NANO・PICOは国際標準技術化―(大型副次利用から最適小型利用へ)”. 2010年3月15日閲覧。
  14. ^ JAXA、“掃除衛星”の研究開発に着手-10年後小型機実用化”. 日刊工業新聞. 2010年3月17日閲覧。
  15. ^ 三菱電機 DSPACE/2009年4月コラムVol.2[自己増殖を続ける「宇宙ゴミ」を掃除せよ!:林公代]
  16. ^ 導電性テザー(EDT):研究開発部門 - JAXA
  17. ^ 環境事業 日東製網株式会社
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  19. ^ 鈴木弘一『はじめての宇宙工学』森北出版株式会社、2007年。ISBN 978-4-627-69071-4 
  20. ^ a b c d 岩崎信夫『図説 宇宙工学概論』丸善プラネット株式会社、1999年。ISBN 4-944024-64-9 
  21. ^ a b 世界初の「木造」人工衛星打ち上げへ…土井宇宙飛行士「宇宙開発の資材として期待できる」”. 読売新聞オンライン (2023年6月21日). 2023年6月25日閲覧。
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  23. ^ Conventional Disposal Method: Rockets and Graveyard Orbits”. 2010年3月17日閲覧。
  24. ^ 「軌道上サービス」 宇宙ごみ問題の解決策となるか”. AFP (2018年12月1日). 2018年12月1日閲覧。
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    コペルニクス500
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