レイシャル・プロファイリング
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/15 08:24 UTC 版)
警察はドライバーや通行人を不審人物とみなした場合、ストップ・アンド・フリスク (stop and frisk) という所持品検査や職務質問などを行っている。特に若い黒人男性がその対象となることが多く、走行中に停車させられ、あるいは公の場で突然尋問や身体検査が行われることもある。また警察によって不必要に暴力を受けたり殺害されたりするケースが多く報告されている。一方で、捜査は妥当なものであるという主張もなされている。
ストップ・アンド・フリスク (Stop-And-Frisk)
ニューヨーク市警察が2009年に発表したデータによると、警察が市民を引き留め身体調査 (ストップ・アンド・フリスク) した575,000人の歩行者のうち、黒人は市の人口の23パーセントにすぎないにも関わず、55%のアフリカ系アメリカ人が対象になっており一方で人口の35%を占めている白人系は、10%しか調査対象になっていなかった[1]。
違法薬物の使用に関する全国調査では、使用する割合は白人もアフリカ系も同程度だったが、2018年度には、黒人10万人あたり約750人が薬物関連で逮捕されているのに対し、白人系は10万人あたり350人だった[2]。
アフリカン・アメリカン・スタディーズの第一人者でありハーバード大学のヘンリー・ルイス・ゲイツ教授は、自分の家の鍵が壊れていたために苦心してドアを開けようとした際に警察に通報され逮捕された。このことはゲイツの友人でもある時の大統領バラク・オバマを巻き込んで大きな社会的議論となった。
そして最後に、この事件とは別に切り離してみても、私たちが認識していると考えていることのひとつとして、この国には、警察によって、アフリカ系アメリカ人とラティーノの人たちが不自然に多くひきとめられてきた長い歴史がある、ということだ。それは事実としてある。 — Barack Obama
しかしこのオバマの発言は警察との関係悪化を招き、また支持率にネガティブな影響を与えた。
2018年、オバマ政権のホワイトハウスの元スタッフであったダレン・マーティンはアパート引っ越しの日に隣人から「武装した黒人の強盗」と通報され、6人ほどの武装警官に囲まれた。なぜ武装していると認識したのか理由はわからないが、一歩間違えれば命の危険があった[3]。
2018年10月7日、米南部ジョージア州アトランタで黒人男性のコーリー・ルイスが白人の子供の面倒を見ながら買い物をしていたところ、警察に通報されて子供たちの前で職務質問された[4]。この事件で#BabysittingWhileBlack (黒人でベビーシッター) の怒りのツイートが続出した。
2018年04月16日、米コーヒー・チェーン大手スターバックスは、フィラデルフィアの店舗で友人を待っていただけの黒人2人が店長に店から出るよう言われ、拒否して逮捕された件について謝罪した[5]。
走行中の黒人 (Driving While Black)
しばしば問題とされているのは、交通法の明白な違反ではなく、ただ運転者が黒人あるいは有色人種であるということのために、運転手が警察官によって停止されるというケースが非常に多いと報告されている。いわゆる、飲酒運転 (driving while intoxicated: DWI) をもじり、冷笑的に、走行中の黒人 (driving while black: DWB) ともいわれる、走行中のアフリカ系アメリカ人をターゲットにした捜査。
多くの有名なアフリカ系アメリカ人もまた、運転中に何らかのプロファイリングが疑われる経験をしたことを公表している。
著名な天体物理学者でアメリカ自然史博物館ヘイデン・プラネタリウム館長をつとめるニール・ドグラース・タイソンは、何度も警察によって車を路肩によせられたときの警察の曖昧な理由と、多くのアフリカ系アメリカ人物理学者が同様な経験をしていることを示し、こう語っている[6][7]。
我々は DWI (飲酒運転: driving while intoxicated)ではなく、私たちの誰もどこに記載されているのかもわからない違反で有罪とされているのだ。つまり DWB (運転中の黒人: driving while black)、 WWB (歩行中の黒人: walking while black)、そして無論、JBB (ただ単に黒人であること: just being black) というだけの理由で。 — ニール・ドグラース・タイソン、「私の皮膚の色に関する所見」
- ^ Donald, Heather Mac (2010年6月25日). “Opinion | Fighting Crime Where the Criminals Are” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331 2020年2月16日閲覧。
- ^ 「【解説】 なぜアメリカで大勢が怒っているのか 人種に関する3つのデータ」『BBCニュース』。2020年8月26日閲覧。
- ^ CNN, Holly Yan. “This is why everyday racial profiling is so dangerous”. CNN. 2020年2月16日閲覧。
- ^ 「米南部で「黒人男性がベビーシッター」は不審と通報」『BBCニュース』、2018年10月11日。2020年2月16日閲覧。
- ^ 「米スタバ謝罪、友人を待っていた黒人男性逮捕 人種差別の批判受け」『BBCニュース』、2018年4月16日。2020年2月16日閲覧。
- ^ Tyson, Neil deGrasse (2004). The Sky Is Not the Limit: Adventures of an Urban Astrophysicist. Amherst, New York: Prometheus Books. pp. Chapter 4. ISBN 978-1591021889.
- ^ “Reflections on the Color of My Skin - Neil deGrasse Tyson”. www.haydenplanetarium.org. 2020年12月26日閲覧。
- ^ (英語) 「レイシャル・プロファイリング(人種的外見に頼って判断する行為) の禁止」 (英語) 2020年12月26日閲覧。
- ^ “渡辺謙が1年以上をかけ自ら取材!ドキュメンタリー「“9.11テロ”に立ち向かった日系人」放送決定!|シネマトゥデイ”. シネマトゥデイ. 2020年12月26日閲覧。
- ^ “新型ウイルスで拡散するアジア人嫌悪、繰り返される差別の歴史”. www.afpbb.com. 2020年2月16日閲覧。
- ^ 「アメリカン航空、トイレを2回流したムスリム男性を「不審者扱い」 FBIが尋問も」『BBCニュース』、2019年9月26日。2020年2月16日閲覧。
- ^ a b バイエ・マクニール. “アメリカ大使館が異例の警告「日本の警察」の疑い 多くの在日外国人が感じている「不当な扱い」”. 東洋経済. 2022年8月25日閲覧。
- ^ a b c d 國崎万智 (2021年2月14日). “「ドレッドヘアーは薬物持つ人多い」ミックスの男性への職質、「差別的で違法」と波紋”. ハフポスト日本版. BuzzFeed Japan株式会社. 2021年12月6日閲覧。
- ^ Montgomery, Hanako (2021年2月16日). “What It’s Like Being Black, Japanese, and Constantly Stopped By Police For No Reason”. VICE World News. VICE Media Group. 2021年12月6日閲覧。
- ^ Mas, Liselotte (2021年2月5日). “Video: Japanese policeman admits to searching Black man because of his dreadlocks”. The Observers. France 24. 2021年12月6日閲覧。
- ^ 坪池順 (2021年12月6日). “アメリカ大使館、日本警察の「レイシャル・プロファイリングの疑い」で異例の警告ツイート。「拘束されたら連絡を」”. ハフポスト日本版. BuzzFeed Japan株式会社. 2021年12月6日閲覧。
- ^ 職務質問30回 身に覚えはないのに…NHK 2022年10月7日
- 1 レイシャル・プロファイリングとは
- 2 レイシャル・プロファイリングの概要
- 3 ブラック・ライヴス・マター (Black Lives Matter)
- 4 関連項目
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