かみのけ座
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Coma Berenices | |
---|---|
属格形 | Comae Berenices |
略符 | Com |
発音 | [ˈkoʊmə bɛrəˈnaɪsiːz]、属格:/ˈkoʊmiː/ |
象徴 | ベレニケ2世の頭髪 |
概略位置:赤経 | 11h 58m 25.0885s- 13h 36m 06.9433s[1] |
概略位置:赤緯 | +33.3074303° - +13.3040485°[1] |
20時正中 | 5月下旬[2] |
広さ | 386.475平方度[3] (42位) |
バイエル符号/ フラムスティード番号 を持つ恒星数 | 44 |
3.0等より明るい恒星数 | 0 |
最輝星 | β Com(4.25等) |
メシエ天体数 | 8[4] |
確定流星群 | 1[5] |
隣接する星座 |
りょうけん座 おおぐま座 しし座 おとめ座 うしかい座 |
髪の毛に喩えられた星の多くは、かみのけ座の領域の南西部に見える「メロッテ111」と呼ばれる散開星団に属しており、肉眼や双眼鏡で観望することができる[8][9]。かみのけ座は銀河面から離れた位置にあるため明るく見える星も少ないが、その分星間物質も少ないため天の川銀河外の遠方銀河の観測には適した領域である。かみのけ座の北東部に見えるかみのけ座銀河団は、銀河団の中でも最大級の規模を持つことで知られる。おとめ座との境界に近い南西部にはおとめ座銀河団に属する銀河が多数見られる。
特徴
東をうしかい座、西をしし座、南をおとめ座、北をりょうけん座に囲まれており[6]、アルクトゥールス・スピカ・デネボラ・コルカロリの4星を繋いだ四辺形のアステリズム「春のダイヤモンド」に囲まれるように位置している。20時正中は5月下旬頃[2]と、北半球では晩春から初夏にかけて見頃を迎える。領域の北端でも赤緯33.3°と赤道に近い位置にあるため、人類が居住しているほぼ全ての地域から星座の全域を観望することができる[10]。
由来と歴史
古代ギリシア時代から、しし座とうしかい座の間にぼんやりとした星の集まりがあることは知られていた[7]。たとえば紀元前3世紀前半のマケドニアの詩人アラートスの詩篇『パイノメナ (古希: Φαινόμενα)』のおとめ座を詠んだ節の後には、現在のかみのけ座の星々のことを詠んだと思われる彼女(おとめ座[注 1])の両肩の上方(北の方)に循環する星は、大きさと輝きとにおいて、大熊の尾の下に見られる星と類似する。
[11]という節がある[9][12][13]。
紀元前3世紀後半の天文学者エラトステネースは、天文書『カタステリスモイ (古希: Καταστερισμοί)』の中でこの星々の由来について2つの異なる説を紹介している。1つはベレニケ2世の髪束であるとする説で、Λέων(しし座)の節の中で「ライオンの上方(北)に見える7つの暗い星は、ベレニケの髪束である」とした[14][15]。もう1つの説はクレーテーの王女アリアドネーの髪束であるとする説で、こちらは Στέφανος(かんむり座)の節の中で「ライオンの尾の下にある髪の束もまたアリアドネーのものである」とした[16][17]。このことから、ベレニケ2世の髪の毛にまつわる話が広まる以前はアリアドネーの髪の毛とする伝承が一般的であった可能性が示唆されている[16]。また1世紀初頭の古代ローマの著作家ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスは、著書『天文詩 (羅: De Astronomica)』のしし座の節の中で、しし座そのものについてよりも多くの紙幅を割いてこの星々がサモスのコノンとカリマコスが伝えるベレニケの髪束であることを説明している[16]。
帝政ローマ期2世紀頃のクラウディオス・プトレマイオスの天文書『ヘー・メガレー・スュンタクスィス・テース・アストロノミアース (古希: ἡ Μεγάλη Σύνταξις τῆς Ἀστρονομίας)』、いわゆる『アルマゲスト』でもこれらの星々は独立した星座として扱われなかった[7]。プトレマイオスはこれらの星を髪の房や三つ編みを意味する Πλόκαμος と呼び、「星座を構成しない星」としてしし座の節の中で取り扱った[7]。またプトレマイオスはこの星々の成す形を「ツタの葉のような形」と表現した[7]。これより9世紀ほど時代を下った11世紀のペルシア人天文学者のビールーニーもこれらの星を「ツタの葉のような形をした集まり」を意味する Kitāb al-Tafhīm と表現しており、プトレマイオスからの影響が見られる[7]。
この星群を「ベレニケの髪の毛」という1つの星座として独立させたのは、16世紀ドイツの地図製作者カスパル・フォペルであった[7][18]。フォペルは、1536年に木版画で製作した天球儀で Berenices Crinis という名称で3つの星の並びと豊かな髪の毛を持つ女性の星座絵を描いた[7]。奇しくも同年にライスニヒ生まれの人文主義者ペトルス・アピアヌスが製作した星図にも Crines Berenices Triche(ベレニケの髪束)という名前が記されていたが、こちらは星の並びや星座絵も書かれていなかった[19]。フォペルの描いたかみのけ座の原型は、16世紀の多くの天球儀や地図の製作者たちに引き継がれた。ネーデルラントの地理学者ゲラルドゥス・メルカトルは、1551年に製作した天球儀で星座絵のデザインを髪束に変更し、ラテン語で「髪束」を意味する Cincinnus という星座名を付けた[7][18]。このメルカトルによる髪束の意匠は、メルカトル自身の地図製作者としての名声も手伝って、のちのちまで引き継がれることとなった[18]。デンマークの天文学者ティコ・ブラーエは、1598年1月に製作した手書きの星表『Stellarum octavi orbis inerrantium accurata restitutio』の中で COMÆ BERENICES の名称で独立した星座として扱い[20]、彼の死後の1602年に刊行された天文書『Astronomiae Instauratae Progymnasmata』に収められた星表でも COMA BERENICES の名称で1つの星座として独立させた[21]。ティコ・ブラーエの星表の影響は大きく、これ以降星座として認知されるようになった[7][22]。
このような経緯で成立した星座であるため、ドイツの法律家ヨハン・バイエルが1603年に刊行した全天星図『ウラノメトリア (Uranometria)』ではまだ独立した星座として扱われておらず、うしかい座の星図と星表の中で「アラートスがおとめ座で加えた名前のない星」として紹介され、ベレニケや Cincinnus(髪束)、Rosa[注 2] (バラ)などの呼び名があることが示されたに留まった[23][12]。そのため、現在かみのけ座の3つの星に付されている α から γ までのギリシャ文字の符号はバイエルによるものではない[7]。これらの符号は、19世紀イギリスの天文学者フランシス・ベイリーが編纂し、彼の死後1845年に刊行された星表『The Catalogue of stars of the British Association for the Advancement of Science』、いわゆる『BAC星表』で付されたものである[7]。
1922年5月にローマで開催された国際天文学連合 (IAU) の設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Coma Berenices、略称は Com と正式に定められ[24][25]、以降この名称が世界で共通して使われている[6]。このIAU第1回総会の議事録では、かみのけ座の学名が Coma としか書かれていない[24][26]が、学名と略号の提案者の1人[注 3]であるアメリカの天文学者ヘンリー・ノリス・ラッセルが『ポピュラー・アストロノミー』1922年10月号に寄稿した記事では、学名は Coma Berenices で、略号を作る際に Berenices の部分が考慮されなかったことが示されている[25]。
日本では長くティコ・ブラーエが設定者とされてきた[27]が、2010年代以降はフォペルが設定者とされるようになった[2][9]。
中国
ドイツ人宣教師イグナーツ・ケーグラー(戴進賢)らが編纂し、清朝乾隆帝治世の1752年に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、かみのけ座の星は、三垣の1つ「太微垣」と二十八宿の1つ「角宿」に配されていたとされる[28][29]。太微垣では、GK が天子の寵臣を表す星官「幸臣」に、39・36・27・6 と不明の1星の計5星が5人の諸侯を表す星官「五諸侯」に、31 が天子直近の武官の長を表す星官「郎将」に、γ・14・16・17・13・12・21・18・7・23・26・20・5・2 と不明の1星の計15星が天子側近の護衛官を表す星官「郎位」に、α が太微垣の左の城壁を表す星官「太微左垣」の東上将に、それぞれ配された[28][29]。角宿では、β・37・41 の3星が周の王室に伝えられた鼎を表す星官「周鼎」に配された[28][29]。
神話
古代エジプトプトレマイオス朝の王プトレマイオス3世とその妻で王妃のベレニケ2世にまつわる話が知られている[7]。プトレマイオス3世は自分の姉妹を殺したセレウコス朝シリアを紀元前243年ごろ攻めた。ベレニケは、夫が無事に戻ったならば、美しく、かつ美しいゆえに有名であった自分の髪を女神アプロディーテーに捧げると誓った。夫が無事に帰還すると、王妃は誓い通りに髪を切って女神の神殿に捧げた。すると、翌朝には髪の毛は消えていた。王と王妃は大変に怒り、神官たちは死刑を覚悟した。このとき天文学者コノンは「神は王妃の行いが大変に気に入り、かつ髪が美しいので大変に喜び、空に上げて星座にした」と王と王妃に告げて、しし座の尾の部分を指し示した。コノンのこのとっさの機転によって神官たちの命は救われた[7]。
この話は、プトレマイオス3世に仕えたヘレニズム期の宮廷詩人カリマコスの詩 Lock of Berenice で神話化され[7]、のちにガイウス・ウァレリウス・カトゥルスによってラテン語に翻訳紹介された[30]。
注釈
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