栄養要求株
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/03 08:17 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動栄養要求株(えいようようきゅうかぶ; auxotroph)とは、微生物における用語で、普通は栄養要求の異なる突然変異株のことをさす。
一般に菌類や細菌類等の微生物を培養する際、その微生物が成長するために必要な栄養分を含んだ培地を準備する。微生物は、その培地から栄養を吸収して成長する。培地に余計な栄養分があっても大抵は構わないが、どうしても必要な成分が足りなければ、成長できなくなる。そこで、培地から余分な栄養を取り除いて行けば、最低限必要な栄養の種類というものが見つかる。これを栄養要求と言う。これに基づいて構成された培地組成が最少培地である。
栄養要求は種によって異なる。多くの種類を必要とするものもあれば、ごく少数の成分だけで十分なものもある。例えばアカパンカビの場合、炭素源として糖類、窒素源として硝酸塩とビオチン、それに若干の無機塩類だけで十分に成長する。これは栄養要求としては最低限に近い例である。
ところが、例えばアカパンカビであっても、アミノ酸が培地に含まれなければ生育しない株が見つかることがある。そのようなものは通常の株からの突然変異によっても生じる。このような、栄養要求に変化を生じたものを栄養要求株といい、特に要求する栄養素の名を取って、たとえばアミノ酸要求株などという。これに対して、本来の栄養要求を持つものを野性株、あるいは原栄養株 (prototroph) という。
このような変異は、突然変異による酵素の欠失等から起こるものと考えられている。先の例でいえば、アカパンカビは培地にアミノ酸が含まれなくても生育可能であるが、これは上記の成分からアミノ酸を合成する能力があるということになり、そのような化学反応を進められる酵素群を持っているということになる。もし、その経路に関わる酵素のどれかが作れないような変異株があれば、その株はその栄養素を外部から取り込まなければならなくなるのである。
また、この場合、その栄養素の合成経路が分かれば、その経路の中間産物を適宜与えることで、どの段階で齟齬(そご:食い違いのこと)が生じているかを確かめる事が可能である。一遺伝子一酵素説は,このような過程を経て出されたものである。
栄養要求性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/12 14:03 UTC 版)
「マロラクティック発酵」の記事における「栄養要求性」の解説
乳酸菌には選好性がある。これは、要求される栄養素をすべて自ら作り出すことができないということである。乳酸菌が増殖し、マロラクティック発酵が完了するためには、醸造中のワインがこの栄養要求をみたしていなければならない。酵母と同様、乳酸菌はエネルギー代謝のために炭素源(糖やリンゴ酸)を、タンパク質の合成のために窒素源(アミノ酸やプリン体)を、そして酵素や細胞の諸器官の合成を補助するために様々なビタミン(ナイアシン、リボフラビン、チアミンなど)やミネラルを必要とする。 これらの栄養素はムストそのものに含まれている場合が多いが、乳酸菌を接種してマロラクティック発酵とアルコール発酵を同時に行う場合、酵母が栄養素を独占して乳酸菌を打ち負かしてしまうリスクがある。発酵が終わるまでに元々の栄養素はほとんど消費しつくされてしまうが、死んだ酵母(澱)が溶菌することでアミノ酸などの栄養素が供給される。なおかつ、糖分をすべてアルコール発酵させる辛口ワインであっても、アラビノース、リボース、キシロースといった五炭糖は残存しているため、乳酸菌はこれを利用することができる。ただし、このときの乳酸菌はワインに対し好影響を与えるものだけではなく、悪影響が出ることもある。酵母と同様、培養された乳酸菌を用いる場合は栄養要求性が厳しいことも多く、その場合は専用の栄養素を補充する必要がある。ただし、窒素源としてリン酸二アンモニウムを利用できない点は酵母とは異なる。 フリーズドライの培養乳酸菌の有用性が進歩し、様々な栄養素を補充する技術が導入される以前にワイン醸造に使われていた乳酸菌は、研究室で斜面培養によって選抜された菌株であった。1960年代、醸造家はリンゴジュースやトマトジュースを含む培地を用いることで容易に種菌を入手できることに気が付いた。このトマトジュースに含まれていた成分はパントテン酸であり、これが細菌の生育のために重要なのであった。 酵母と同様、乳酸菌にとっても酸素は必要であるとみなされるが、これはオエノコッカス・オエニのような微好気性菌にのみあてはまり、かつ必要量は極めて少ない。現時点では完全に嫌気的な環境よりも好気的な環境の方がマロラクティック発酵が進みやすいことを示す証拠は無く、実際に酸素が供給過剰になるとアセトバクタ―などの別の微生物に適した環境になってしまうため乳酸菌の生育が遅れることが分かっている。
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