RNAワールド仮説とは? わかりやすく解説

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RNAワールド

(RNAワールド仮説 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/11 07:55 UTC 版)

RNA ワールドとは原始地球上に存在したと仮定される、RNA からなる自己複製系のこと。また、これがかつて存在し、現生生物へと進化したという仮説を RNA ワールド仮説と呼ぶ。RNAワールドという学名は1986年、ウォルター・ギルバートによって提唱された[1]

逆に、核酸より先にアミノ酸が重合してポリペプチドタンパク質が生まれ、これが触媒として働いて核酸を生み出し生命の起源になったとする仮説をプロテインワールド仮説という[2]

概要

現在の生物は、酵素を触媒としてDNAやRNAといった核酸を合成し、核酸の配列を基に酵素を合成している。このどちらが起源なのかは長らくの疑問であった。

しかし、酵素ではなくRNAでありながら自己スプライシング機能を持つリボザイムやRNAを基にDNAを合成する逆転写酵素が発見されたことで、RNAが酵素(ポリペプチド)と遺伝情報(DNA)両方の起源となりうることが証明され、RNAワールド仮説が提唱されるようになった[3]

RNAワールドからDNAワールドへの発展は、RNAからタンパク質に生化学反応の触媒が移行し、RNAはタンパク質の配列を示す遺伝暗号としての機能を持つようになり、RNAが不安定な分子なので、RNAからDNAがその機能を担うようになり、おこったとされている[4]

RNA ワールド仮説を生命の起源説として主張するにあたってはいくつかの問題点が指摘されている[5]。主要な物として、

  1. 様々な核酸類似体の存在下で、これらがRNA特有の結合様式をとった根拠が無い。
  2. RNA は DNA 等と比べ不安定な分子であり分解されやすい。
  3. 自己複製能力をもつ RNA 分子が見つかっていない。

第一の点は最も主要な難点と考えられる。RNA の材料が原始的環境に豊富に存在し、それらが核酸特有の 5'-3' のリン酸結合を行ったのかどうか、現在では支持する証拠は少ない。しかし、隕石からはRNAに含まれるリボースと核酸塩基が見つかっている[6][7]。これに対してはいくつかの説明が考えられている。一つは RNA の材料や RNA がより合成されやすい何らかの条件を仮定するもので、もう一つの説明では、別のポリマーの世界が RNA ワールド以前に存在したとする。後者の候補として、より合成されやすく重合する際にとり得るパターンがより単純なトレオース核酸などが挙げられている。このとき RNA ワールドが最初の生命(進化しうる自己複製系)であったかどうかについては他に説を譲る可能性もあるが、DNA-プロテインワールドが RNA ワールド以降に発生したとする点では一致している。

また、安定性に関しては温度を下げることが安定化に役立つ可能性がある。この考えを元に氷点下の環境で機能するリボザイムが合成されており、凍結融解に伴う濃縮などの効果とあわせて、氷海の RNA ワールドが提案されている[8]

自己複製能力についても困難な問題の一つと言える[9]。しかし、他の RNA を鋳型に、ある程度の長さの RNA を合成する RNA は既に合成されており、根本的には不可能ではないと考えられる。また自己複製を行う RNA が発見された時、この説はより強固になるとも言える。

参考文献

出典

  1. ^ Gilbert 1986.
  2. ^ Harish & Caetano-anollés 2012.
  3. ^ Cech, Atkins & Gesteland 2005.
  4. ^ Alberts et al. 2002.
  5. ^ Robertson & Joyce 2012.
  6. ^ Callahan, Michael P.; Smith, Karen E.; Cleaves, H. James; Ruzicka, Josef; Stern, Jennifer C.; Glavin, Daniel P.; House, Christopher H.; Dworkin, Jason P. (2011-08-23). “Carbonaceous meteorites contain a wide range of extraterrestrial nucleobases” (英語). Proceedings of the National Academy of Sciences 108 (34): 13995–13998. doi:10.1073/pnas.1106493108. ISSN 0027-8424. PMC 3161613. PMID 21836052. https://www.pnas.org/content/108/34/13995. 
  7. ^ Furukawa, Yoshihiro; Chikaraishi, Yoshito; Ohkouchi, Naohiko; Ogawa, Nanako O.; Glavin, Daniel P.; Dworkin, Jason P.; Abe, Chiaki; Nakamura, Tomoki (2019-12-03). “Extraterrestrial ribose and other sugars in primitive meteorites” (英語). Proceedings of the National Academy of Sciences 116 (49): 24440–24445. doi:10.1073/pnas.1907169116. ISSN 0027-8424. PMC 6900709. PMID 31740594. http://www.pnas.org/lookup/doi/10.1073/pnas.1907169116. 
  8. ^ Vlassov et al. 2004.
  9. ^ Cech 2012.

RNAワールド仮説

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 07:05 UTC 版)

生命の起源」の記事における「RNAワールド仮説」の解説

詳細は「RNAワールド」を参照 RNAワールド仮説は、「初期生命RNA基礎としており、後にDNAにとって替わられた」とするものである1981年トーマス・チェックらによって発見され触媒作用有するRNAである「リボザイム」がその根底にある。また、レトロウイルスによる逆転写酵素発見もその拍車となった。RNAワールド仮説の趣旨以下の通りである。 RNA自己スプライシングrRNAの例もあり、自ら触媒作用有している。 RNARNAウイルスにおいては遺伝情報保存役割果たしている。 RNADNA比べて変異導入率が高く進化速度速いRNA自体触媒作用遺伝情報保存両者をになう点は、生物学者に大きなインパクト与え、RNAワールド仮説は、いまだ生命の起源論争中でも主たる考察であると言えるしかしながらRNAワールド否定する意見としては、以下の点があげられるリボザイムの持つ自己複製能力は、それ自体では存在しないリボザイム触媒能力タンパク質のそれに比べてきわめて低く特異性存在しないRNA分子構造が不安定であり、初期地球多量に存在したであろう紫外線宇宙線によって容易に分解を受ける。 しかし、特異性に関して近年ではハンマーヘッド型リボザイム筆頭顕著な改善認められる

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「RNAワールド仮説」を含む「生命の起源」の記事については、「生命の起源」の概要を参照ください。


RNAワールド仮説

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/03 04:20 UTC 版)

リボ核酸」の記事における「RNAワールド仮説」の解説

詳細は「RNAワールド」を参照 RNAワールド仮説は、生命発生した頃にはRNA遺伝情報維持現在のDNA役割)と、酵素のような生化学的触媒両方役割担ってたとする仮説である。これは無生物的な環境に於いてRNADNA比較して容易に合成されることなどを根拠としている。 この仮説では生物遺伝情報ゲノム)の貯蔵媒体としてRNA使用しその後変異進化によりDNAタンパク質徐々に台頭してきたと考えられている。ただしRNADNA違って相補性確保されておらず、修飾を受けやすい不安定な分子であり、生物においてゲノム安定保持する機能は主にDNA担っている一方で非生物特性併せ持つウイルスでは、ゲノムを持つRNAウイルスとしては、プラス鎖のもの(コロナウイルスなど)とマイナス鎖のもの(インフルエンザウイルスなど)の両方が見つかっている。現時点2006年)では、ゲノム保持DNAではなくてRNA用いているのはウイルスだけであると考えられている(ウイルスにはゲノム保持媒体RNA用いているものとDNA用いているものの2種類がある)。

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