4サイクルの大量化学療法で成績改善 LANCETの論文
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「髄芽腫」の記事における「4サイクルの大量化学療法で成績改善 LANCETの論文」の解説
世界で最も権威が高いといわれる医学雑誌のThe LANCETに2006年9月に掲載されたアメリカからの報告。小児がんの集学的治療で有名なSt. Jude小児病院からの報告である。 Gajjar A , et al: Risk-adapted craniospinal radiotherapy followed by high-dose chemotherapy and stem-cell rescue in children with newly diagnosed medulloblastoma (St Jude Medulloblastoma-96): long-term results from a prospective, multicentre trial. Lancet Oncol 2006 Oct;7(10):813-20 日本での紹介記事 http://cancernavi.nikkeibp.co.jp/news/post_100.html http://health.yahoo.co.jp/news/detail?idx0=w16060906 手術の後に、患者は平均リスク髄芽腫(残存腫瘍が1.5cm2以下でかつ転移がない)、または高リスクの髄芽腫(残存腫瘍が1.5cm2より大きいか、脳脊髄幹に転移がある)に分類された。 すべての患者はリスクに応じて調整された全脳全脊髄放射線療法を受けた(標準リスク病に対しては23.4Gy、そして高リスク病に対しては36.0 - 39.6Gy)。それに続いて4回のサイクルの、シクロホスファミドベースの、高用量の化学療法を行った。 134人の髄芽腫の子供たちが治療を受け(86人が標準リスク、48人が高リスク)、119人(89%)が計画されたプロトコルを完了した。 治療関連死はなかった。 5年全生存は、標準リスクのグループの患者で85%(95%の信頼区間75 - 94)、高リスクのグループで70%(54 - 84)であった(P=0.04); 5年の無イベント生存は、それぞれ83%(73 - 93)と70%(55 - 85)であった(P= 0.046)。 116人の患者の病理組織が中央の検査を受けたが、組織学的サブタイプは5年無イベント生存と関連があった(P=0.04):クラシックな組織のものは84%(74 - 95)、繊維形成性腫瘍は77%(49 -100)、そして大細胞の退形成性の腫瘍は57%(33 - 80)であった。 通常、髄芽腫の化学療法は1年間ほど継続されるが、この報告では幹細胞救援を併用することにより、治療強度を高めるとともに、治療期間を短縮して、約4か月という短期間での化学療法に成功している。なお、用いられた薬剤は、シスプラチン、ビンクリスチンと大量シクロフォスファミドである。 この報告では、4サイクルの化学療法の1クール分の抗がん剤の量は、直ちに骨髄を破壊するような量ではなく、幹細胞救援なしでも実行不可能な量ではない。しかし、幹細胞救援を伴うことにより、骨髄の回復を早めることにより、各クールの間隔を短縮し、結果として短期間の治療を可能にしたものである。抗がん剤は短期間に多くの量を使用した方が耐性が生じる前に決着をつけることができるという小児科の医師にとってはよく知られた知見があるが、これを地で行ったような報告と評することが可能ではないかと思われる。 そして、特に着目すべきは、高リスク群では70%もの5年無イベント生存率を達成していることである。 標準リスク群も、83%の5年無イベント生存率であり、優秀な成績であるが、別に報告しているとおり、アメリカでは標準リスク群で大量化学療法を用いずとも、80%を超える成績を達成しており、かつこの治療は日本でも可能であるので、副作用が厳しい大量化学療法を標準リスク群に使うことについては異論もあるものと思われる。短期間で患者の拘束期間少なく治療を終えることができるというメリットをどう評価するかであろう。 また、実際には、本プロトコールでは、以下の通り、標準治療よりもトータルの抗がん剤の量は少なくなっている。したがって、標準治療よりも抗がん剤による晩期障害の恐れは少なくなる可能性もあるかもしれない。その点が今後の評価に委ねられることになる。 (標準治療 全8クール) シスプラチン75mg/m2 day0 総量600mg/m2 ビンクリスチン 1.5mg/m2 day1,7,14 総量36mg/m2 シクロフォスファミド 1g/m2 day21,22 総量16g/m2 (本プロトコール 全4クール) シスプラチン75mg/m2 day-4 総量300mg/m2 ビンクリスチン 1.5mg/m2 day-4,6 総量12mg/m2 シクロフォスファミド 2g/m2 day-3,-2 総量16g/m2 高リスク群については、全脳全脊髄照射が36.0 - 39.6Gyと高いことから、晩期障害が懸念され、さらなる減量照射による治療法の開拓が望まれる。 しかし、いずれにせよ、大量化学療法で優秀な成績を達成し、かつ治療による副作用死はなかったと報告されており、安全に施行できる治療法であることから、大変に参考になる報告と思われる。 日本では、通常の大学病院での高リスク髄芽腫の5年無進行生存率は30-40%程度と思われる。
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