1年単位変形労働時間制
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/04 21:30 UTC 版)
「変形労働時間制」の記事における「1年単位変形労働時間制」の解説
1988年(昭和63年)の改正法施行により「3か月単位の変形労働時間制」として新設され、さらに1993年(平成5年)の法改正により対象期間が「3か月」から「1年」に変更された。年間を通して、季節ごとの繁閑の差が大きい事業場での採用を想定している。採用する場合は、あらかじめ年間を通した業務の繁閑を見込んで、それに合わせて労働時間を配分することから、突発的な場合を除いては恒常的な時間外労働はないことを前提とする(平成6年1月4日基発1号)。 使用者は、労使協定により、以下の事項を定めたときは、その協定で対象期間として定められた期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内において、当該協定で定めるところにより、特定された週において40時間(特例事業であっても特例の適用は無く、44時間ではなく40時間となる)又は特定された日において8時間を超えて、労働させることができる(第32条の4)。使用者は、当該労使協定を所轄の労働基準監督署長に届け出なければならない。 労使協定に定めなければならない事項は以下のとおりである。 対象労働者の範囲 対象期間(その期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、1か月を超え1年以内の期間に限るものとする)及びその起算日 特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間をいう)特定期間においては連続して労働させる日数の制限が緩和されるが、対象期間の相当部分を特定期間とすることは法の趣旨に反し認められない。またいったん協定した特定期間を対象期間の途中で変更することも認められない(平成11年3月31日基発169号)。 特定期間を設定する必要がない場合においても、「特定期間を定めない」旨定めることが必要である。ただし、特定期間について何ら定めがない協定については、「特定期間を定めない」旨定められているものとみなすこととする(平成11年3月31日基発169号)。 対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間対象期間における連続して労働させる日数の限度は6日、特定期間における連続して労働させる日数の限度は1週間に1日の休日が確保できる日数(最大で12日)である。 対象期間を1ヵ月以上の期間ごとに区分する場合、最初の期間における労働日及びその労働日ごとの労働時間を労使協定に定めれば、その後の各期間については総枠(労働日数と総労働時間)を定めておくことで足りる。その後の各期間の労働日及びその労働日ごとの労働時間は総枠の範囲内で確定していく。この場合、各期間の初日の少なくとも30日前に事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数代表者)の同意を得て、書面で定めていく。こうすることで、業務の繁閑が予想しづらいために対象期間の中~終盤ほど時間外労働が生じるおそれを回避できる。 当該労使協定(労働協約である場合を除く)の有効期間の定め 1日の労働時間の限度は10時間(タクシー業の隔日勤務者は16時間)、1週間の労働時間の限度は52時間とされる。また、対象期間が3か月を超える場合、 対象期間における労働日数は1年当たり280日が限度である。 対象期間においてその労働時間が48時間を超える週が連続する場合は3週以下でなければならない。 対象期間をその初日から3か月ごとに区分した各期間において、その労働時間が48時間を超える週の初日の数が3以下でなければならない。 対象期間より労働する期間が短い労働者(途中採用、配置転換、退職等)について、当該労働させた期間を平均し1週間当たり40時間を超えて労働させた場合においては、その超えた時間の労働については、第37条の規定の例により割増賃金を支払わなければならない(第32条の4の2)。この割増賃金は37条でいう「割増賃金」には該当しない(1年単位の変形労働時間制を採用した結果として清算したものである)から、使用者はこれを支払わなくても37条違反にはならない(24条の「全額払いの原則」違反に問われることになる)。一方、途中退職者の実際の勤務期間における週平均労働時間が、当該1年単位の変形労働時間制における週平均の所定労働時間を下回った場合、当該下回った時間数に応じて賃金を差し引くこと(過払賃金の清算)は、変形期間の前半に対象期間中の週平均所定労働時間を超える所定外労働時間を特定した月があるような場合には、賃金の過少払いとなり、したがって、このような賃金の計算方法は、法違反を生じる可能性が極めて高いものであり、労働基準法の強行法規としての性格にかんがみれば、違法となる場合が容易に想定される内容を含む労使協定を結ぶことはできない(平成11年3月31日基発169号)。
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