非可換環に対する分離拡大
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/06 11:17 UTC 版)
「分離多元環」の記事における「非可換環に対する分離拡大」の解説
R を単位元 1 を持つ結合環、S を R の 1 を含む部分環とする。このとき R-両側加群は制限によって S-両側加群となることに注意せよ(また以下の議論に関する用語等は加群論およびホモロジー代数などの項を参照)。環 S 上の環拡大 R が分離拡大であるとは、R-両側加群の任意の短完全列が (R, S)-両側加群として分解 (split) するならば R-両側加群としても分解するときにいう。例えば、m(∑i ri ⊗S ti) = ∑i ri⋅ti から定まる乗法写像 m: R ⊗S R → R は R-両側加群準同型で、(R, S)-両側加群の全準同型となる(その右逆準同型 R → R ⊗S R は r ↦ r ⊗ 1 で与えられる)。R が S 上分離的な拡大環ならば、その乗法写像 m は R-両側加群全準同型として分解し、したがって m の右逆準同型 s が存在して、s(1) := e, re = er (∀r ∈ R, m(e) = 1 を満足する。逆に、そのような元(これをテンソル平方における分離元と呼ぶ)が存在すれば、それをうまく用いて(マシュケのように、その成分を分離写像の内外に適用し)R が S の分離拡大であることを示せる。 あるいは同じことだが、(R, S) の任意の係数両側加群 M における相対ホッホシルト・コホモロジー(英語版)群 Hn(R, S; M) は、任意の n > 0 に対して零である。分離拡大の例には、R を分離多元環、S を 1 × k (k は係数体) となる、一次的な分離多元環を多く含む。より興味深いことに、ab = 1 だが ba ≠ 1 となる元 a, b を持つ任意の環 R は {1} ∪ bRa で生成される部分環 S 上分離的である。 この分野における、意義深い定理として J. Cuadra は「分離ホップ-ガロワ拡大 R/S は自然な有限生成 S 加群 R を持つ」ことを述べる。分離拡大 R/S に関する基本的な事実として、それが左または右半単純拡大となることが挙げられる: つまり、左または右 R-加群からなる短完全列で S-加群として分解するものは R 加群として分解する(ゲルハルト・ホッホシルト(英語版) の相対ホモロジー代数の言葉で言えば、任意の R-加群が相対 (R, S)-射影的と言い表せる)。ふつうは、部分環や(分離拡大の概念ような)環拡大の相対性質は、上にある環が部分環と性質を共有することを述べる定理の取り上げる役に立つ。例えば、半単純多元環 S の分離拡大多元環 R は R-半単純性を持つ(これは先の議論から従う)。 有名な Jans の定理「標数 p > 0 の体上の有限群環 A が有限表現型となるための必要十分条件は、そのシロー p-群が巡回群となることである」がある。この最も明瞭な証明は、この事実が p-群に対するものであることに留意して、それからこの群環がその指数が標数と互いに素なシロー p-部分群の群環 B の分離拡大であることに着目するものである。上記の分離性条件は任意の有限生成 A-加群 M が、その制限・誘導加群の適当な直和因子に同型となることを導く。しかし B が有限表現型を持つならば、制限加群は一意的に有限個の直既約加群の定数倍の直和となり、それが M が直和となる有限個の直既約加群成分を誘導する。したがって、A が有限表現型となるのは B がそうであるときに限る。逆は、任意の部分群環 B が群環 A の B-両側直和因子加群となることに注意して同様に示される。
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