赤道上の尾根
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/08 02:19 UTC 版)
「イアペトゥス (衛星)」の記事における「赤道上の尾根」の解説
赤道には幅 20 km、高さ 13 km、長さ 1,300 km の巨大な尾根が連なっている。この地形はカッシーニによる2004年12月31日の観測で発見された。尾根の頂上は周囲の平原から 20 km 以上もの高さがあり、太陽系の天体で最も高い山のひとつである。尾根は複雑な構造をしており、孤立して存在する山、200 km を超えて山が連なる領域、3つの尾根がほぼ平行に走っている領域などが見られる。尾根領域には多数のクレーターがあるため、これは古い地形であることが示唆される。この尾根の存在によって、イアペトゥスの外見はクルミに似たものとなっている。 この尾根がどのように形成されたのかは明らかになっていない。赤道にほぼ完全に沿って存在しているのが、形成を説明するのが困難な原因である。現在は少なくとも4つの仮説があるが、なぜ尾根がカッシーニ地域に限定されているのかを説明できるものは存在しない。 カッシーニのミッションに携わっている科学者のチームは、尾根構造はかつての若いイアペトゥスが現在よりも早く自転していた際の、潰れた楕円体形状の名残であるという可能性を主張している。この説が正しい場合、尾根の高さから示唆される過去の自転周期は最速で17時間である。もしイアペトゥスが尾根構造を十分維持できるほどに急速に冷却され、しかし土星の潮汐力によって現在の潮汐固定された79日という自転周期にまで減速できるほどの可塑性があったとすると、イアペトゥスはアルミニウム26の放射性崩壊によって加熱されていた必要がある。アルミニウム26の半減期は7.17×105年であり、土星が形成された原始惑星系円盤には豊富に存在したものの、現在までに全て崩壊してしまっている。そのため、イアペトゥスを必要な温度にまで加熱するのに必要なアルミニウム26の量から、イアペトゥスの形成年代を推定することができる。この場合、イアペトゥスは小惑星が形成され始めてからわずか200万年以内という予想よりも早い段階で形成されている必要がある。 尾根は、地下から湧き上がってきて凝固した氷主体の物質であるという仮説。この仮説の場合、もし尾根が赤道から離れた場所に形成された場合は、尾根によって衛星の回転軸の移動が引き起こされ現在の位置まで移動したという経緯をたどる必要がある。 赤道上の尾根は、かつてイアペトゥスの周囲に環が存在した名残であるという仮説。イアペトゥスはヒル圏が大きく、形成している最中は周囲に環を持てた可能性がある。また、小さな衛星が破壊されてイアペトゥスを取り囲む環になった可能性もある。その環がイアペトゥスに降着することで尾根が形成される。 尾根と膨らんだ構造は過去の逆転の結果だとする仮説。この仮説では、膨らんだバルジ構造は地球の山と同じように地殻平衡の状態にあると主張する。これは、バルジ構造の下には低密度の物質が存在することを意味している。バルジの重さはその場所での浮力と釣り合う。尾根もまた密度の低い物質で形成されている。赤道に沿った位置に存在しているのは、イアペトゥス内部の液体になっている部分に働くコリオリの力の結果である可能性がある。
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