設定・定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/06/25 16:28 UTC 版)
散乱過程を始状態から終状態への転移としてとらえる散乱理論では、その転移確率を時間依存シュレディンガー方程式を用いて求める(時間発展についてはシュレディンガー描像から相互作用描像に書き換えてから計算することもある)。この方法は量子力学の考え方に沿った方法であり、非弾性散乱なども扱えるため一般性がある。 系の時間発展は相互作用描像であるとする。つまり状態の時間発展は「朝永-シュウィンガーの式」で表される。 衝突前の始状態の時刻としては、事実上無限の過去の時刻 t ′ = − ∞ {\displaystyle t'=-\infty } をとることができる。 t ′ = − ∞ {\displaystyle t'=-\infty } には、2個の入射粒子は十分遠くに離れていて、その間に相互作用はないと考えられる。 ただし粒子間の相互作用は、粒子間距離 r {\displaystyle r} の逆数 1 / r {\displaystyle 1/r} よりもはやく消えるものとする(したがって粒子間にクーロン力が作用する場合には、以下の理論はそのままでは適用できない)。この条件をみたす限り、 t ′ = − ∞ {\displaystyle t'=-\infty } における状態として、自由ハミルトニアン H ^ 0 {\displaystyle {\hat {H}}_{0}} の固有状態を選ぶことができる。すなわち t ′ = − ∞ {\displaystyle t'=-\infty } において系の状態ベクトル | ψ I ( t ′ = − ∞ ) ⟩ {\displaystyle |\psi _{I}(t'=-\infty )\rangle } を以下のように設定しておく。 | ψ I ( t ′ = − ∞ ) ⟩ = | Φ i ⟩ H ^ 0 | Φ i ⟩ = E i | Φ i ⟩ ⟨ Φ i | Φ j ⟩ = δ i , j {\displaystyle {\begin{aligned}|\psi _{I}(t'=-\infty )\rangle &=|\Phi _{i}\rangle \\{\hat {H}}_{0}|\Phi _{i}\rangle &=E_{i}|\Phi _{i}\rangle \\\langle \Phi _{i}|\Phi _{j}\rangle &=\delta _{i,j}\end{aligned}}} | ψ I ( t ) ⟩ = U ^ ( t , − ∞ ) | ψ I ( − ∞ ) ⟩ = U ^ ( t , − ∞ ) | Φ i ⟩ {\displaystyle |\psi _{I}(t)\rangle ={\hat {U}}(t,-\infty )|\psi _{I}(-\infty )\rangle ={\hat {U}}(t,-\infty )|\Phi _{i}\rangle } この表式は、はじめ時刻 t ′ = − ∞ {\displaystyle t'=-\infty } において状態 | Φ i ⟩ {\displaystyle |\Phi _{i}\rangle } にあった系が、時刻 t {\displaystyle t} においては相互作用の影響によって状態 | ψ I ( t ) ⟩ {\displaystyle |\psi _{I}(t)\rangle } に変わっていることを表すものである。 2粒子の衝突が終わり、それらの粒子がたがいに遠くに離れた時刻を t = + ∞ {\displaystyle t=+\infty } とすると、その状態は | ψ I ( t ′ = + ∞ ) ⟩ = U ^ ( + ∞ , − ∞ ) | Φ i ⟩ {\displaystyle |\psi _{I}(t'=+\infty )\rangle ={\hat {U}}(+\infty ,-\infty )|\Phi _{i}\rangle } で与えられる。この式によって形成された状態ベクトル | ψ I ( t ′ = + ∞ ) ⟩ {\displaystyle |\psi _{I}(t'=+\infty )\rangle } を、 H 0 ^ {\displaystyle {\hat {H_{0}}}} の固有ベクトルの完全系 | Φ i ⟩ {\displaystyle |\Phi _{i}\rangle } で展開し、その展開係数を S j , i {\displaystyle S_{j,i}} と書くと、 ⟨ Φ f | ψ I ( + ∞ ) ⟩ = ⟨ Φ f | U ^ ( + ∞ , − ∞ ) | Φ i ⟩ = ∑ j ⟨ Φ f | Φ j ⟩ S j , i = ∑ j δ f , j S j , i = S f , i {\displaystyle \langle \Phi _{f}|\psi _{I}(+\infty )\rangle =\langle \Phi _{f}|{\hat {U}}(+\infty ,-\infty )|\Phi _{i}\rangle =\sum _{j}\langle \Phi _{f}|\Phi _{j}\rangle S_{j,i}=\sum _{j}\delta _{f,j}S_{j,i}=S_{f,i}} S f , i = ⟨ Φ f | U ^ ( + ∞ , − ∞ ) | Φ i ⟩ {\displaystyle S_{f,i}=\langle \Phi _{f}|{\hat {U}}(+\infty ,-\infty )|\Phi _{i}\rangle } は、時刻 t ′ = − ∞ {\displaystyle t'=-\infty } に H 0 ^ {\displaystyle {\hat {H_{0}}}} の固有状態 | Φ i ⟩ {\displaystyle |\Phi _{i}\rangle } にあった系が、相互作用 V ^ I {\displaystyle {\hat {V}}_{I}} によって、時刻時刻 t ′ = + ∞ {\displaystyle t'=+\infty } において H 0 ^ {\displaystyle {\hat {H_{0}}}} の固有状態 | Φ f ⟩ {\displaystyle |\Phi _{f}\rangle } に転移する確率振幅を与える。この S f , i {\displaystyle S_{f,i}} をS行列と呼び、 S ^ = U ^ ( + ∞ , − ∞ ) {\displaystyle {\hat {S}}={\hat {U}}(+\infty ,-\infty )} をS演算子と呼ぶ。 散乱現象に関するすべての知識はS行列によって記述される。つまり、S行列が求められれば散乱問題は解けたことになる。S行列が求まれば、その絶対値の2乗をとることにより、始状態 ψ i ⟩ {\displaystyle \psi _{i}\rangle } から終状態 ψ f ⟩ {\displaystyle \psi _{f}\rangle } への転移確率 W f , i {\displaystyle W_{f,i}} が求まる。 W f , i = | S f , i | 2 {\displaystyle W_{f,i}=|S_{f,i}|^{2}} これより散乱断面積が計算できる。したがって、散乱現象を状態の転移として考える立場において、S行列はその中心的な役割をになう重要な物理量となる。
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設定・定義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/11 03:28 UTC 版)
z 軸の正の方向に、それと垂直な単位面積を通して入射する毎秒当たりの粒子数を N とし、また原点 O を中心とする半径 r の球面上の面要素 dS 内に毎秒到達する粒子数を ΔN とする。この粒子数 ΔN は NdS/r2 に比例する。検出器上の面要素 dS を原点から見た立体角を dΩ とすると、dΩ = dS/r2 であるから、 Δ N = σ ( θ ) N d Ω {\displaystyle \Delta N=\sigma (\theta )N\mathrm {d} \Omega } である。ここで θ は、粒子が衝突によって z 軸からそれた角度であり、これを散乱角という。また σ(θ) は単位面積あたり毎秒1個の粒子が入射してくるとき、散乱角 θ の方向の単位立体角のなかに散乱されてくる粒子数の割合を表しており、面積の次元を持つ。そこで σ(θ) を散乱の微分断面積という。これを全立体角にわたって積分した σ t o t a l = ∫ σ ( θ ) d Ω = 2 π ∫ 0 π σ ( θ ) ⋅ sin θ d θ {\displaystyle \sigma _{\mathrm {total} }=\int \sigma (\theta )\mathrm {d} \Omega =2\pi \int _{0}^{\pi }\sigma (\theta )\cdot \sin \theta \mathrm {d} \theta } を散乱の全断面積という。これは単位面積のスリットを通って、毎秒1個の粒子が入射するとき、散乱されてくる全粒子数の割合である。 古典的粒子が球形の標的粒子に衝突する場合に、全断面積は球の幾何学的断面積に等しい。したがって原子による電子の散乱の場合には、散乱の全断面積の大きさはボーア半径の2乗程度の大きさである。 弾性散乱(英語版)の場合、散乱の微分断面積は散乱振幅 f(θ) の絶対値の2乗で与えられる。 σ ( θ ) = | f ( θ ) | 2 {\displaystyle \sigma (\theta )=|f(\theta )|^{2}}
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