散乱理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/03 01:47 UTC 版)
散乱理論(さんらんりろん、英: Theory of Scattering)は、粒子などの散乱を扱う理論のこと。
物質の微視的な構造を調べるときに最も一般的な方法は、その物体に粒子(または波動)を衝突させて、散乱された粒子の分布の様子を調べることである。現代物理学の実験的研究の結果の多くは量子力学における散乱理論に基づく計算の結果と比較されることになる。[1]
実験では電子、光子(電磁波)、中性子、陽子、イオンなどが、原子、分子、原子核、素粒子などによって散乱される。
通常、量子力学を用いてこれらの散乱を記述する理論のことを散乱理論と言う場合が多いが、古典力学によって扱われる散乱もある。以下は、量子力学の立場による記述である。
散乱現象を扱う2つの方法
散乱現象を理論的に扱う方法には2つの方法が考えられる。[1]
例として、ホースから出た水が散乱体にぶつかって四方八方に飛び散るような散乱現象を考える。
第一の方法では、水を出しっぱなしにして全体の状況が定常的になったとき、この散乱の様子を撮影した1枚の写真として全体像を考察する。この方法では、一体もしくは二体の弾性散乱(散乱前後でエネルギーが不変である散乱)のみ扱う事ができる。この方法では定常状態のシュレディンガー方程式を、散乱を表す境界条件のもとで解くことで、散乱状態を求める。
これはハミルトニアンの固有値・固有ベクトルを求める問題とは異なることに注意しなければならない。入射粒子のエネルギーは実験者によって指定されるため、弾性散乱では散乱状態のエネルギー固有値Eはすでに指定されており、それに対応するエネルギー固有状態を求めるのである。つまり自由粒子(入射状態)の満たしているエネルギー固有関係を境界条件として微分方程式を解く。これにはグリーン関数を用いる方法が有用である。
シュレディンガー方程式の解である散乱状態は、入射平面波と外向き球面波の重ね合わせで記述されると考えて、その球面波の振幅(散乱振幅)を決定することで散乱断面積を求める。この考え方は古典的な波動の散乱の問題の扱い方と本質的に同等であり、その波動が量子的な確率振幅であると解釈する点だけが異なる。以下ではこちらの方法での散乱理論を記す。
第二の方法では、ホースから出た1つの水滴がどのように散乱されていくかを時間的に追跡していく。この方法では、散乱過程を始状態から終状態への転移としてとらえ、その転移確率を時間依存シュレディンガー方程式を用いて求める(時間発展についてはシュレディンガー描像から相互作用描像に書き換えてから計算することもある)。この方法は、より量子力学の考え方に沿った方法であり、非弾性散乱なども扱えるため、第一の方法より一般性がある。この方法はS行列の理論とも呼ばれる。
ポテンシャルによる電子散乱
定常状態のシュレディンガー方程式の解
散乱体が、単独に存在する(孤立した)マフィンティンポテンシャル
散乱理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/05 05:23 UTC 版)
詳細は「散乱理論」および「リップマン‐シュウィンガー方程式」を参照 散乱理論の形式論では、グリーン関数が用いられる。その基本方程式にもグリーン関数が含まれ、リップマン‐シュウィンガー方程式と呼ばれる。 | ψ ( ± ) ⟩ = | ϕ ⟩ + G 0 ^ ± V ^ | ψ ( ± ) ⟩ {\displaystyle |\psi ^{(\pm )}\rangle =|\phi \rangle +{\hat {G_{0}}}^{\pm }{\hat {V}}|\psi ^{(\pm )}\rangle \,}
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