西洋産の反西洋都市主義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 07:05 UTC 版)
「オクシデンタリズム」の記事における「西洋産の反西洋都市主義」の解説
リヒャルト・ワーグナー(ドイツロマン派の代表例)は、自分のゲルマン的英雄タンホイザーが旅の途中、官能と美の女神ヴィーナスに誘惑される場面について、こう記している。 フリードリッヒ・ディエックマンの意見では、ヴィーナスの山は「パリ、ヨーロッパ、西洋」のことである。この軽薄で、商業化され、堕落した世界では、「自由と疎外」が我々のいる「居心地よいが時代遅れの田舎ドイツ」よりも進んでいるという。彼の意見に賛成だ。 ワーグナーの語りは、フランスの軽薄さに対する単なる反感を越えている。人が都市を嫌う理由は様々だが、オクシデンタリストの都市に対する偏見は、たいていの理由付けを遥かに超越している。彼らの考えでは都市は、非人間的で欲望に身を任せた邪悪な動物のひしめく「動物園」であり、都市生活者は「人間の魂を失った動物」なのである。 帝国主義下でヨーロッパは科学・産業・商業などの発展により、世界のメトロポリス(巨大都市・中心地)となった。それは、特定のヨーロッパの地域が世界の中心となり、それ以外ほとんどの場所は周辺部分に追いやられることを意味した。 ワーグナーのフランスに対する反感、および周辺地方国としてのドイツという考えは、ナポレオン・ボナパルトのヨーロッパ遠征の遺物ではあった。しかし、当時19世紀後半に力の頂点に達したフランス帝国は、ナポレオン下のフランスと異なり商業帝国であって、神的な使命感よりも富の追及によって動かされていた。19世紀商業帝国主義の最大の都はロンドンであり、世界最大の工業都市 ―― 「黒い悪魔の工場」の首都 ―― はマンチェスターだった。パリは粋なコスモポリタン的首都の座をロンドンと競い、ベルリンはいつもそれらに追いつこうと必死になっていた。 不純な都市文明を殲滅し、精神・人種の浄化を理想に掲げるオクシデンタリストにとって、こうした都会は羨望と恐れを同時に呼び起こす「憎悪の的」となった。その二世紀後には、ニューヨークがそれに該当した。
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