船内での飛行士
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/25 06:42 UTC 版)
船内では飛行士は耐熱保護板を背にし、椅子に座った姿勢であお向けに横たわっていた。地上での実験では、発射時や大気圏再突入時の高Gに耐えるにはこの姿勢が最適であることが判明していた。またファイバーグラス製の座席は、宇宙服を着たときの飛行士の体型にぴったり合うように特注されたものであった。飛行士の左手には緊急脱出用ロケットの操作レバーがあり、発射前あるいは発射中に非常事態が発生し、なおかつロケットが自動点火しなかった場合には、飛行士自身がこのレバーを引いて脱出した。 宇宙服には、船内の環境制御装置の他に独自の生命維持装置が付属しており、酸素の供給や体温の調節などを行うことができた。船内の空気には、5.5重量ポンド毎平方インチ (37.921ヘクトパスカル) の純粋酸素が使用された。一方でソ連の宇宙船では、地上の大気と同じ1気圧の酸素と窒素の混合気を使用していた。NASAがこの方式を選択したのは、こちらのほうが制御しやすく、減圧症 (潜水病とも言われる) の危険を避けることができ、宇宙服の重量を減らせたからである。火災が発生した際には (実際には一度も起らなかったが)、船内から酸素をすべて排出することによって消火した。またそのような事態に限らず、何らかの理由で船内の気圧がゼロになってしまったような場合でも、飛行士は宇宙服に保護されて地球に帰還することができた。ヘルメットのバイザーは、飛行中は上げた状態にされていた。これは宇宙服の中が通常は与圧されていないことを意味する。もしバイザーを下ろして服の中を与圧すると、宇宙服は風船のようにふくらんでしまい、重要なスイッチが配置されている左側の計器板にかろうじて手が届くだけという状態になってしまった。 飛行士には、胸部に心拍数を計測するための電極、腕には血圧を計測するための加圧帯、体温を測定するための直腸体温計がつけられ (最後の飛行では口中体温計に改められた)、測定値はリアルタイムで地上に送られた。また水は普通に飲み、丸薬状の食料も摂ることができた 軌道に乗ると、宇宙船は中心軸に沿ったもの (ロール)、左右方向 (ヨー)、上下方向 (ピッチ) の3つの軸に沿って回転させることができた。機体の制御は過酸化水素を燃料とする小型ロケットエンジンで行った 。また正面にある窓または潜望鏡によって位置を確認することができた。潜望鏡は360°回転させることができ、その画像は目の前のスクリーンに映し出された。 宇宙船の開発には飛行士たち自身も関わり、機体の制御と窓の設置は絶対に譲れない条件であると主張した。その結果、宇宙船の運動およびその他の機能は3つの方法によってコントロールされることとなった。1つは地上からの中継によるもの、1つは船内の機器によって自動的に行われるもの、最後は飛行士ら自身による制御で、飛行士の操作は他の2つよりも最優先されるものとなった。マーキュリー最後の飛行で飛行士のゴードン・クーパーは手動で大気圏に再突入したが、これは飛行士による操作ができるようにしていなければ実現不可能なものであり、その有効性が結果によって確認されることとなった。
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