線虫の駆除
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/03 05:38 UTC 版)
薬剤を樹幹に注入するか土壌に散布し根から吸収させる。効果では線虫増殖抑制作用のものと殺線虫作用のものに大別される。 代表的なものにモランテル(酒石酸塩が商品名グリーンガード)、メスルフェンホス(商品名ネマノーン)、レバミゾール(塩酸塩が商品名センチュリー等)、マクロライド系と呼ばれ、土壌中の細菌が産生する3種、ネマデクチン(商品名メガトップ)・エマメクチン(商品名ショットワンツー)・ミルベクチン(商品名マツガード)などがある。これらの薬剤の有効成分の多くは人を含む動物における線虫感染症にも用いられており、中には殺虫剤として使われるものもある。その他の薬でも効くものがあり、線虫も人や昆虫と同じくアセチルコリンを神経伝達物質として使うので神経伝達作用を阻害する作用の薬、例えばアセチルコリンの速やかな分解を阻害する有機リン剤なども線虫に有害である。 材線虫病は感染後急激に発症枯死に至り、また管類の閉塞が見られることもあって、投与は線虫の感染前に予防的に行われることが多い。防除効果は極めて高いがマツ1本あたり数千円の薬剤費用がかかり、かつ1-3年に一回の継続的な投与が必要だという費用的な問題の他、ドリルによって穴を開けることや傷口の不適切な処理による傷害、また薬害が出る場合もある等の欠点がある。薬剤の成分調整や施用方法の改良によりこれらの問題は改善されつつあるが、費用面・労働面の負担が依然として農薬散布に比べ大きく広範囲に用いるのは現実的ではない。主に各地の銘木や貴重な個体群、個人所有の庭木などに対して用いられる。 カミキリの場合同様、天敵生物の利用もいくつか研究されているが実用に至ったものは無い。マツ丸太に対して線虫とヒラタケ等の線虫捕食菌を共に接種した結果では、マツノザイセンチュウの増殖を抑制することがしめされている。またトリコデルマ(Trichoderma)属菌やアクレモニウム(Acremonium)属菌は線虫に対して有害であるとされる。マツノザイセンチュウは系統によって病原性が大きく異なり、また強毒性の系統でも培養を重ねると病原性を失う。この病原線虫の発見者の一人である清原友也は弱毒性系統の線虫を事前に接種しておくと、後に強毒性系統の線虫を接種した時に枯死しにくいというワクチンのような誘導抵抗性効果があるという面白い現象を報告しているが、これも実用化には至っていない。 他の植物寄生線虫による被害、特に農作物における線虫の被害は土壌病害という扱いになるものが多く、薬剤燻蒸の他にも連作を避けたり、殺線虫効果のあるマリーゴールド等の植え付け、天地返しなどの伝統的対処法が知られている。細菌の一種バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)の産生する毒素は昆虫に有害、人に無害ということでBT剤などと呼ばれ農薬に用いられてたり、毒素を作り出す遺伝子を農作物に組み込んで遺伝子組み換え作物として利用されたりしている。近年この毒素が昆虫のみならずある種の線虫にも有害であるという報告がなされており、農作物だけでなく他の分野への応用が期待される。 薬剤の樹幹注入風景 レバミゾール エマメクチン ミルベメクチン チオナジン
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