生産・流通・消費
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/04/30 08:47 UTC 版)
渡利かきは採卵から種苗の育成、養殖、出荷まですべて白石湖内で完結する。カキの幼生を採取できる産地は限られており、日本国内でこうした一貫生産体制をとる産地は珍しい。渡利かきの稚貝を他の産地へ移して育てることはできるが、他産地の稚貝を白石湖で養殖することはできない。白石湖は頻繁に塩分濃度が変化する汽水域であり、カキは身を守るため固く殻を閉ざし、グリコーゲンをため込む。またこの時カキの殻に付いたホヤなどの付着生物は死滅するため、湖中の栄養分がカキに十分に行き渡る。 渡利かきの生産は7月にカキのこども(幼生)を採取することから始まる。幼生はプランクトン状態でありルーペで拡大しながら探し、養殖業者でもゴミと見誤ることがある。稚貝の状態で養殖用に出荷することもあり、石川県など寒冷の産地へ出荷する。稚貝を秋口からロープに吊るして湖中に沈め(「本差し」と呼ばれる)、翌年の秋から冬にかけて出荷できる大きさに育つ。ロープに吊るす水深は、塩分濃度の変化を見極めながら上下させる。養殖に使う筏の数や筏に吊るすカキの数は制限があり、狭い漁場に与える負荷を軽減する取り組みが行われている。 出荷時期は11月から3月中旬であり、特に身の締まる2月が旬である。出荷前には紫外線で殺菌する。例年、出荷作業は12月が最盛期で年明けから半月ほど経過すると落ち着いてくる。生産量が少ないため流通先は地元がほとんどであるが、一部は名古屋や東京の飲食店へ出荷される。築地市場には出荷されていない。出荷作業が終わる春には筏の修繕や、採苗のためのホタテガイを海中に吊るす作業を行う。 相賀のある寿司店ではカキフライや焼きガキといった一般的な料理のほか、郷土料理「カキの握り寿司」を提供している。寿司に使うカキは甘辛く煮付けたもので、洋辛子を添えて出される。郷土料理としての「カキの握り寿司」は1940年(昭和15年)には既に存在し、正月や祭りなどのハレの日の食事として重宝されてきた。別の寿司店では紀北町観光協会が開催する「きほくラブめし」で初代グランプリを獲得した「渡利かきのひつまぶし」を考案し、紀勢自動車道紀北PA始神テラスでも2017年(平成29年)から提供を始めた。渡利かきのひつまぶしを食べる作法はウナギを使ったひつまぶしと同じである。地元の養殖業者は生のまま酢醤油で食べるのがおいしいと語っており、肉の代わりに渡利かきを使った「かきカレー」にする家庭もある。加工食品として、オイル漬けなどの瓶詰め商品も生産されている。
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