生態と生理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/09/27 08:01 UTC 版)
初夏から晩秋にかけてマツ科の樹下に生じ、外生菌根を形成する。37種の樹木と共生することが知られ、これは一種の外生菌根の宿主の数としてはもっとも多い例であるとされている。日本ではアカマツ・クロマツなどの二針葉マツの林内でごく普通に見出される。沖縄においては、同じく二針葉マツ類の一種であるリュウキュウマツの樹下に生える。もともとマツ科の樹木が分布していない小笠原諸島(母島および父島)からも報告されているが、これは沖縄から人為的に導入されたリュウキュウマツに伴って持ち込まれたもので、自然分布ではないと考えられる。まれに五針葉マツ類の樹下に発生することもあり、石川県ではハイマツ林で採集されている。北海道においても、アカマツ・クロマツや、海外から植栽された二針葉マツ類の樹下に発生するという。 幼齢ないし若齢林に多く、マツ類の苗の周囲にも発生し、壮齢ないし老齢林においては、土壌微生物学的に未熟な傾向がある尾根筋などに好んで生息する。また、地中では鉱物質層(B層)に生息し、そこからマツ類の細根に沿って有機物に富んだ層(F層ないしA層)へと細くて白色の菌糸束を伸ばし、つぎつぎに外生菌根を形成していく。チチアワタケの純粋培養菌株をアカマツあるいはヒマラヤゴヨウ(Pinus wallichiana A. B. Jackson)の苗に接種すると、苗の全重量・主根の長さ・側根の本数は50-60パーセント増加したという。なお、窒素15(15N)を標識とした室内実験によれば、アカマツの生育基質中に含まれる窒素のうち、アカマツの針葉に供給されるのはその10-60パーセントに過ぎず、残りの大部分はチチアワタケの菌糸中に蓄積されるという結果が得られている。 いっぽう、チチアワタケの菌糸は、樹木の葉や枝などを分解する上で重要な役割を果たすと考えられるさまざまな酵素(セルラーゼ ・D-グルコシダーゼ ・ラッカーゼ ・マンガンペルオキシダーゼ ・リグニンペルオキシダーゼ ・ホスファターゼ およびプロテアーゼなど)を産出し、これらの酵素生産能力は、林床への落ち葉・落ち枝の供給量に比例して有意に増大するとの研究結果があり、潜在的には腐生菌としての能力を持つとされている。 一般に、外生菌根を形成するきのこ類の多くは人工培養が難しいものが少なくないが、本種についてはさほどでもなく、子実体内部の組織を無菌的に取り出し、腐生菌向けに常用されているバレイショ-ブドウ糖寒天培地 (potato dextrose agar:PDA)などに接種すれば旺盛に生育し、培養菌株を得ることができる。外生菌根形成菌向けに考案されたハーゲム寒天培地(Hagem Agar:ブドウ糖 5g、麦芽エキス 5g、塩化アンモニウム 0.5g、リン酸二水素カリウム 0.5g、硫酸マグネシウム七水和物 0.5g、塩化鉄(III)1%溶液 0.5 ml、粉末寒天20g)も使用できる。また、改変メリン=ノルクランス寒天培地(Modified Melin-Norkrans Agar:塩化カルシウム 0.05g,、塩化ナトリウム 0.025g、リン酸二水素カリウム 0.5g、リン酸水素二アンモニウム 0.25g、塩化マグネシウム七水和物 0.15g、塩化鉄(III)1%溶液 1.2 ml、チアミン塩酸塩 0.1 mg、麦芽エキス3.0g、ショ糖 10.0gをこの順序で蒸留水に溶かし、20gの寒天を加えて1000 mlとする)を用い、抗生物質(たとえばストレプトマイシン)を併用することによって、子実体の組織からばかりではなく、地中から掘り上げてよく洗浄した菌根から分離・培養することも可能である。ただし、人工的な条件下で子実体を形成させるのに成功した例はまだない。
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