法典実施断行ノ意見
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これに対して、法治協会が『法律雑誌』(第883号)に発表した「法典実施断行ノ意見」は一層激烈であった。 (一)法典の実施を延期するは国家の秩序を紊乱するものなり (二)法典の実施を延期するは倫理の壊乱を来たすものなり (三)…国家の主権を害し独立国の実を失はしむるものなり (四)…憲法の実施を害するものなり (五)…立法権を放棄し之を裁判官に委するものなり (六)…訴訟粉乱をして叢起せしむるものなり (七)…各人をして安心立命の途を失はしむるものなり (八)…国家の経済を攪乱するものなり これは、道義維持者たる法典を早急に完備すべきと説く自然法学的法典実施論であるが、延期論者を痴人狂人と罵る非理性的感情的なものであった。儒教的色彩も指摘されている。 当時我輩も、法理上から…論じたものを延期派の事務所に送っ…たが…「至極尤ではあるが、此際利目が薄いから御気の毒乍ら」と言うて戻して来た。成程前に挙げた意見書でも分る様な激烈な論争駁撃の場合に、法典の法理上の欠点を指摘するなどは、白刃既に交わるの時に於いて孫呉を講ずる様なもので、我ながら迂闊千万であったと思ふ。要は…議会の論戦において多数を得ることであった。其目的の為めに大なる利目のあったのは、延期派の穂積八束氏が「法学新報」第5号に掲げた「民法出デテ忠孝亡ブ」と題した論文であったが、聞けば此題目は江木衷博士の意匠に出たものであるとのことである。双方から出た仰山な脅し文句は沢山あったが、右の如く覚えやすくて口調の良い警句は、群集心理を支配するに偉大なる効力があるものである。 — 穂積陳重『法窓夜話』97話 法治協会ではほかに延期意見書に具体的に反論した未完の論文「弁妄」が知られ、家族法部分は後世の学者からも支持を集めている(青山、牧野、手塚)。共同執筆者中の一人は磯部。 同月には、両派の学生が小競り合いを起こす事件が起きている。
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