様々な音変化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/10 02:38 UTC 版)
多くの音変化は、発音しにくい音を楽にするための変化である。しかし、どのような場合に発音しにくいと感じるかは、言語により、時代により異なってくる。例えば日本語では、かつては母音連続を嫌っていたため、連母音の一方を脱落させたり間に子音を挿入したりしていたが、現在ではこのような傾向はない。 同化は、前後の音のどちらかが他方に作用して、似た音あるいは同じ音に変えてしまうことである。iやeの前にあるkやtがtʃに変化する現象は口蓋化と呼ばれ、多くの言語で見られる。これは後ろの音が前の音を変化させるもので、逆行同化と言う。これに対し、英語の複数形語尾の発音z/s/izは、直前の音による変化である。前の音が後ろの音を変化させるものを順行同化と言う。隣接していない音で同化が起こることもあり、ゲルマン語派におけるウムラウトが有名である。例えば英語のfootの複数形feetは、古くはfōtiであったものが、後ろのiの影響でoːがeːに変化したものである(その後、さらに大母音推移でeː→iːの変化を起こした)。 同じ音あるいは似た音が連続すると、そのうちのどれかを違う種類の音に変化させることがあり、これを異化と言う。西欧では、rが連続して同じ語のなかに現れると、そのうちの一つをlに変える傾向がある。例えば英語のpurpleは、ラテン語から借用したpurpuraが変化したものである。 弱化は、母音や子音が弱まる現象。母音弱化は、口腔内の中央付近で調音されるあいまい母音(ə)への変化が代表的で、多くの場合はアクセントの置かれない音節で発生する。子音弱化は、破裂音が破擦音や摩擦音に変化する現象が代表的で、日本語ではハ行子音がp→ɸと変化した例がある。またzの摩擦音が弱まってrに変化する例があり(ロータシズム)、例えばゴート語のmaizaが英語でmore、ドイツ語でmehrに変化している。弱化が進むと、音の脱落が起きる。例えば英語のknifeはkの脱落が起きており、ラテン語のbuccaはスペイン語でbocaになった。 音の脱落には、「いやだ」→「やだ」、「している」→「してる」などがある。脱落が起きても、元の長さを保つために隣接する音が長くなることがある(代償延長)。例えば英語では、語末のrが消失したが、その分直前の母音が長くなった(例:car[kar]→[kaː])。nightは[nixt]から[niːt]に変化した(その後さらに[nait]に変化した)。また、同じ音が続くと、「あしし」→「あし」(悪し)、「たいいく」→「たいく」(体育)のように、重音脱落が起きることがある。 音挿入は、語頭、語中、語尾に音が挿入されることである。語頭の子音連続を回避するため、英語のspiritは、フランス語ではeを付けてespritとなっている。語中でも、音を挿入して発音を楽にすることがある。例えば、「たくあん(沢庵)」を「たくわん」と発音する場合では、wが挿入されている。 音位転換は、語のなかの音の位置が入れ替わることである。例えば、日本語における「あらたし」→「あたらし」(新し)、「したつづみ」→「したづつみ」(舌鼓)などがある。 間違っていると言われる発音を直そうとするあまり、正しい発音も変えてしまう場合がある。これを過剰修正と言う。日本語の方言でヒをシと発音する話者は、シをヒに直そうとする意識が働き、「しく(敷く)」を「ひく」に変えてしまう、等の例がある。
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