極寒環境でのエンジン始動性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/24 22:05 UTC 版)
「星型エンジン」の記事における「極寒環境でのエンジン始動性」の解説
第二次世界大戦当時、生産が容易な星型エンジン搭載航空機は消耗兵器であり、想定使用環境を超えた酷暑や極寒の最前線にも主流として投入された。このうち極寒地域でのエンジン始動性確保には運用上の苦難があった(星型エンジンあるいは空冷エンジン固有の問題ではない)。カナダ北部では、整備士たちは毎日日没が近づくとエンジンからエンジンオイルを抜き、シリンダーには分厚い毛布を巻きつけてシリンダーブロックの温度低下を防ぐ措置を行う必要があり、翌朝の始動に際しては前日に抜いていたエンジンオイルをブローポットと呼ばれる灯油ストーブ付きの鍋で加熱してからエンジンに再度入れて冷間始動を行うという、大変な重労働を強いられていた。こうした状況は当時の寒冷地を抱える列強国の多くで共通した問題であり、1937年にはアメリカ空軍軍属のウェルドン・ワースにより「エンジンオイルに航空燃料を意図的に添加する事で粘度を低下させる」というアイデアが考案され、ほどなく冷間始動時のみに自動的にエンジンオイルに航空燃料を混和させる滑油希釈装置(英: oil-dilution system)が特許取得されるに至る。滑油希釈装置で混和された燃料は、エンジンが始動してエンジンオイルが加熱されるとオイルより先に蒸散する為、暖気完了後はエンジンオイルの粘度が元通りになるという仕組みであり、星型エンジンのみならず、連合軍の水冷V型12気筒を用いる航空機の多くに普及したが、同時期のナチス・ドイツではこの概念が広く理解されることが無いまま独ソ戦に突入し、厳冬期の東部戦線ではエンジンオイルの凍結に苦しめられる事になった。皮肉にも、この問題の解決策はソビエト連邦軍の捕虜たちから伝達される事になった。ソ連兵捕虜達は、エンジンオイル注入口から航空燃料を流し込み、エンジンルーム内に燃料を振り撒いて火を付けるというドイツ兵から見れば破天荒極まりない手段を用いて、しばしばドイツ軍の航空機や戦車のエンジンの冷間始動を成功させたのである。他にも、イギリス空軍では強力な灯油ヒーターを用いて温風をエンジンルームに送り込む装置を搭載したライトバンを「除氷バン」の名称で採用したり、満州国に展開した大日本帝国陸軍飛行戦隊では、エンジンのシリンダーをすっぽり被える構造の巨大なハクキンカイロを採用するなどして極寒下での冷間始動性の向上の努力を行っていた。
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