放射と吸収の原理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 08:54 UTC 版)
物体はそれぞれ熱を持っており、その温度に応じた電磁波を放射している(熱放射という)。物体の温度が高ければ高いほど、放射される電磁波の量が増すとともに、最も強い放射となる波長が短くなる(ウィーンの変位則)。また、物質にはそれぞれ吸収しやすい電磁波の波長(吸収特性)があり、放射された電磁波は吸収特性をもつ物質に吸収され、その物質の熱振動へと変わり、その物質を暖めることになる。 温室効果に関連する放射は、電磁波のうち光として認識される領域の付近である。光はその波長によって紫外域、可視域、赤外域に分類され、それぞれ紫外線、可視光線、赤外線に対応する。 太陽からの放射(太陽光)は波長0.5µm付近(可視光線)で最も強く、これより波長が長く・短くなるほど弱くなる。一方、地球や大気からの放射は波長8 - 12µm付近(赤外線)で最も強く、これより波長が長く・短くなるほど弱くなる。大気を構成する物質のうち、オゾンは近紫外線、窒素や酸素は遠紫外線・真空紫外線を吸収するため、これらは太陽から地表へ届く前に吸収されてしまう。また、水蒸気や二酸化炭素などは赤外線を吸収する。一方、可視光線を吸収する気体は少ないため、可視光線のほとんどが大気を透過して地表に届き、地表を暖める。 太陽放射は1度放射された後、紫外線はオゾン・窒素・酸素に吸収され、可視光線は地表に吸収される。吸収された電磁波は熱となり、熱はやがて電磁波として再び放射されるが、大気も地表も太陽に比べれば温度が低いため、その放射は赤外線付近の波長が最も強い放射となる。放射された赤外線は吸収特性を持つ水蒸気や二酸化炭素などに吸収され、再び赤外線として放射される。 大気と宇宙の間では、熱は熱放射のみでしか伝わらない一方、大気と地表の間では、熱には熱放射・熱伝導・熱伝達という3つの運搬パターンがある。そのため、地表から大気への熱伝導・熱伝達によって地表と大気の温度差が小さくなるおかげで大気から地表への放射も増し、増した放射で暖まった地表はさらに大気へ熱を送るという繰り返しを続ける。 しかし、繰り返しが続く中で、地表や大気が温まるのに比例して、宇宙へ向けて放射されている一部の電磁波の量も増えてくる。この宇宙へ向けての放射(外向き放射)は地球には戻らないため、この量が増えれば増えるほど地球を冷やすこととなる。 つまり、直接宇宙へ反射するものを除いた地球への太陽放射と、外向き放射が完全に一致するようになるまで、地表・大気間の熱循環が増え続け、温室効果は強まり続ける。放射が一致したときに、温室効果が安定し、初めて地球の気温が一定に保たれるのである。 惑星などの熱収支が釣り合う温度を有効温度といい、太陽の光度、惑星のアルベド、太陽までの距離などにより計算でき、この計算により255Kまたは-18℃の地球の有効温度が得られる。地球の実際の平均温度は288Kまたは15℃である。2つの値の間の差異である33℃の差の大きな理由の一つは、地球表面の平均温度を上昇させる水蒸気や二酸化炭素による温室効果に起因するものである。金星の有効温度は-46℃である。太陽光の77%を反射するのが大きな理由である。実際の金星の温度は460℃であり、95気圧の二酸化炭素が510℃分の温室効果をもたらしている。火星有効温度は-56℃であり、実際の温度の-53℃とほとんど変わらない。 二酸化炭素が0.006気圧であり温室効果が弱いからである。なお、水蒸気も強力な温室効果があるので水蒸気の有無も温室効果として考慮する必要がある。
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