抗体医薬品の体内動態
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/07 14:08 UTC 版)
「高分子医薬品」の記事における「抗体医薬品の体内動態」の解説
抗体医薬品は高分子医薬品のなかでもとりわけ血中半減期が長いことが特長としてあげられる。この主要因として内在性のIgGの分解抑制に機能するFcRn(neonatal Fc receptor)を介したリサイクリング促進機構の存在があげられる。もともとFcRnは新生児の小腸に大量に発現し、母乳中のIgGのFc領域と結合してエンドサイトーシスによりIgGを効率よく体内に取り込む機能を果たすことが知られていた。その後FcRnが新生児の小腸に限らず、成人の多くの組織にも発現していることが示された。またFcRnがFcRn(α鎖)とβ2ミクログロブリン(β2-mivroglobulin、β2m)でヘテロ二量体を形成する受容体であることが明らかになり、β2mやFcRn(α鎖)のノックアウトマウスにおいてIgGの血中半減期が著しく短縮した。このことからFcRnはIgGの半減期の延長に寄与する受容体と考えられている。 FcRnとIgGの結合はpH依存的であり、エンドソーム内のpH6.0~6.5程度の酸性条件下では強固に結合するが、pH7.0~7.5程度の中性条件下では解離する特性がある。そのためIgGはピノサイトーシスによって取り込まれた後に、主に細胞内に局在するFcRnとエンドソーム内でIgGのFc領域と強固に結合する。その後、IgG-FcRn複合体は細胞表面にリサイクリングされた後、細胞表面の中性環境においてIgGが解離することで血中に再び戻る。FcRn依存的な抗体の半減期延長効果は、IgGの血中半減期が21日程度に対して、他の免疫グロブリンの抗体の血中半減期が2~10日であることからIgG選択的である。FcRnとFc領域の結合性は動物種が異なると親和性が低下することが知られており、これまでに開発されてきた抗体医薬品のヒトにおける血中半減期を調べると、一般的な傾向として、マウス抗体、キメラ抗体(マウス抗体の可変部とヒト抗体の定常部)、ヒト化抗体(超可変部がマウス抗体由来でそれ以外はヒト抗体と同等)、ヒト抗体の順に半減期が長くなる。また融合蛋白質がもつFc領域のFcRnに対する親和性はIgGそのもののFc領域と比較して低い。FcRnによる半減期延長効果を狙った融合蛋白質医薬品を開発してもIgGほどの長い半減期は得られない可能性がある。 可溶性抗原を標的とする複数の抗体関連医薬品について、pH6.0におけるヒトFcRnに対する解離定数とヒトで血中半減期の間には負の相関関係も報告されている。これらより、弱酸性領域におけるFcRnとの結合親和性が血中半減期の延長効果を決定する要因になっていることが示唆されている。 また抗体医薬品のクリアランスは、その標的蛋白質が可溶性抗原か受容体など膜結合性抗原かによって異なる。一般的な特徴として、膜結合性抗原を標的とする抗体医薬品のクリアランスは、可溶性抗原を標的とする抗体医薬品よりも大きい傾向があるとともに投与量依存的にクリアランスの低下がみられるケースが多いことが知られている。その原因としては標的が可溶性抗原の場合は、主なクリアランス機構が細網内皮系(RES)による非特異的な貪食であることから、抗原の種類によらず類似の動態特性を示すのに対して、標的が膜結合性抗原の抗体の場合は、主なクリアランス機構として細網内皮系による非特異的な貪食に加えて、標的と抗体の複合体が複合体が受容体介在性エンドサイトーシス(RME)により内在化することに始まる標的依存的なクリアランスの飽和で説明される。したがって、標的が膜結合性抗原の抗体の高投与量条件下でのクリアランスは、その標的が可溶性抗原の抗体のクリアランスに近づくような挙動をとる。 その他、抗体医薬品の特有のクリアランス機構としては、同じくIgGのFc領域が結合するFcγ receptor(FcγR)があげられる。FcγRを介したクリアランスの詳細な分子メカニズムやクリアランスの制御に対する定量的な役割は明確にされていない。しかしFcγRの遺伝子変異がIgGでコーティングされた赤血球の血中半減期に影響を与えることから、FcγRは可溶性抗原-抗体複合体の受容体介在性エンドサイトーシスによる細胞内代謝に一部関与している可能性が考えられる。
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抗体医薬品の体内動態
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 06:43 UTC 版)
抗体医薬品は高分子医薬品のなかでもとりわけ血中半減期が長いことが特長としてあげられる。この主要因として内在性のIgGの分解抑制に機能するFcRn(neonatal Fc receptor)を介したリサイクリング促進機構の存在があげられる。もともとFcRnは新生児の小腸に大量に発現し、母乳中のIgGのFc領域と結合してエンドサイトーシスによりIgGを効率よく体内に取り込む機能を果たすことが知られていた。その後FcRnが新生児の小腸に限らず、成人の多くの組織にも発現していることが示された。またFcRnがFcRn(α鎖)とβ2ミクログロブリン(β2-mivroglobulin、β2m)でヘテロ二量体を形成する受容体であることが明らかになり、β2mやFcRn(α鎖)のノックアウトマウスにおいてIgGの血中半減期が著しく短縮した。このことからFcRnはIgGの半減期の延長に寄与する受容体と考えられている。 FcRnとIgGの結合はpH依存的であり、エンドソーム内のpH6.0-6.5程度の酸性条件下では強固に結合するが、pH7.0~7.5程度の中性条件下では解離する特性がある。そのためIgGはピノサイトーシスによって取り込まれた後に、主に細胞内に局在するFcRnとエンドソーム内でIgGのFc領域と強固に結合する。その後、IgG-FcRn複合体は細胞表面にリサイクリングされた後、細胞表面の中性環境においてIgGが解離することで血中に再び戻る。FcRn依存的な抗体の半減期延長効果は、IgGの血中半減期が21日程度に対して、他の免疫グロブリンの抗体の血中半減期が2~10日であることからIgG選択的である。FcRnとFc領域の結合性は動物種が異なると親和性が低下することが知られており、これまでに開発されてきた抗体医薬品のヒトにおける血中半減期を調べると、一般的な傾向として、マウス抗体、キメラ抗体(マウス抗体の可変部とヒト抗体の定常部)、ヒト化抗体(超可変部がマウス抗体由来でそれ以外はヒト抗体と同等)、ヒト抗体の順に半減期が長くなる。また融合蛋白質がもつFc領域のFcRnに対する親和性はIgGそのもののFc領域と比較して低い。FcRnによる半減期延長効果を狙った融合蛋白質医薬品を開発してもIgGほどの長い半減期は得られない可能性がある。 可溶性抗原を標的とする複数の抗体関連医薬品について、pH6.0におけるヒトFcRnに対する解離定数とヒトで血中半減期の間には負の相関関係も報告されている。これらより、弱酸性領域におけるFcRnとの結合親和性が血中半減期の延長効果を決定する要因になっていることが示唆されている。 また抗体医薬品のクリアランスは、その標的蛋白質が可溶性抗原か受容体など膜結合性抗原かによって異なる。一般的な特徴として、膜結合性抗原を標的とする抗体医薬品のクリアランスは、可溶性抗原を標的とする抗体医薬品よりも大きい傾向があるとともに投与量依存的にクリアランスの低下がみられるケースが多いことが知られている。その原因としては標的が可溶性抗原の場合は、主なクリアランス機構が細網内皮系(RES)による非特異的な貪食であることから、抗原の種類によらず類似の動態特性を示すのに対して、標的が膜結合性抗原の抗体の場合は、主なクリアランス機構として細網内皮系による非特異的な貪食に加えて、標的と抗体の複合体が複合体が受容体介在性エンドサイトーシス(RME)により内在化することに始まる標的依存的なクリアランスの飽和で説明される。したがって、標的が膜結合性抗原の抗体の高投与量条件下でのクリアランスは、その標的が可溶性抗原の抗体のクリアランスに近づくような挙動をとる。 その他、抗体医薬品の特有のクリアランス機構としては、同じくIgGのFc領域が結合するFcγ receptor(FcγR)があげられる。FcγRを介したクリアランスの詳細な分子メカニズムやクリアランスの制御に対する定量的な役割は明確にされていない。しかしFcγRの遺伝子変異がIgGでコーティングされた赤血球の血中半減期に影響を与えることから、FcγRは可溶性抗原-抗体複合体の受容体介在性エンドサイトーシスによる細胞内代謝に一部関与している可能性が考えられる。
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