悪党小説とは? わかりやすく解説

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ピカレスク小説

(悪党小説 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/25 01:51 UTC 版)

ピカレスク小説(ピカレスクしょうせつ、: Picaresque novel: Roman picaresque西: Novela picaresca)は、16世紀 - 17世紀スペインを中心に流行した小説の形式。悪漢小説悪者小説ピカレスクロマンとも呼ばれる。

文学的コンテクストと一般的な特徴

15世紀にはスペインでも騎士道小説が広く普及し、16世紀には愛読書の1つになった。その騎士道小説や牧人小説といった理想主義的文学の興隆に反発する形で、スペインの繁栄が脆弱な経済基盤にもたらした貧富の差、それに伴う庶民の経済や宗教の退廃、また浮浪者や物乞いたちの出現を表現した小説が登場する[1]

特徴としては、直截的で口語的な語りと皮肉の口調の文体の中にもユーモアを加えるところ、高貴な血筋の生まれではない主人公が、冒険という非日常ではなく現実という日常を舞台に生きるための闘いを繰り広げ、繁栄の中で当時多くの社会的矛盾を内包するスペインを批判的なまなざしで記している事、などが挙げられる。

作者不詳の『ラサリーリョ・デ・トルメスとその幸運と逆境の生涯[注釈 1](現存最古のものは1554年)は、後述する『ピカロ:グスマン・デ・アルファラーチェの生涯』からさかのぼって、ピカレスク小説のはじまりとされる[2]。主人公ラサリーリョは盲者や司祭、郷士など様々な主人に次々と仕えていく。彼らの偏屈な行動を主人公の独特な視点からペシミスティックで皮肉的に、しかし同情的に親しみを込めて物語る[3]そこにはある種の親しみやすさがあり、好景気にわく16世紀的楽観さがまだある[独自研究?]

語源

ピカレスクの語源はマテオ・アレマンの『ピカロ ―グスマン・デ・アルファラーチェの生涯―』[注釈 2]の「ピカロ」から。悪者と訳されるが、単なる悪い人ではなく、この小説の主人公グスマンのように、

  • 出生に含みのある表現がある(ユダヤ系や娼婦の子であることを暗喩しているものが多い)
  • 社会的には嫌われ者である(が、キリスト教的には慈悲を施すべき対象)
  • 食べる(生きる)ために罪を犯したり、いたずらをしたりする

というような特徴を持った者のことをピカロという。

『グスマン』では犯罪を繰り返す非道徳的な話をしながらそれを中断し、道徳的な訓話を挿入するというバロック的な対比をみせている。そして批判的な叙述はよりユーモアに溢れる一方で、より悲観主義の傾向を強めてゆく(詳しくはマテオ・アレマンを参照)。

その後のピカレスク小説

『従士マルコス・デ・オブレゴン』(1618年)や『びっこの小悪魔』(1641年)のような写実的でありながら抒情的で詩的な小説が出てきた。それ以降では、風俗写実文に過ぎない小説が多く出版される。そんな中でケベードの『ドン・パブロスの生涯 (Historia del Buscón don Pablos)』(1626年)では、言葉遊びに富み、カリカチュアで装飾過多になり、さらに諷刺、揶揄、悲観主義の要素が色濃くなった。

しかし前述したグスマンのバロック手法は、ティルソ・デ・モリーナの『セビーリャの色事師と石の招客 (El Burlador de Sevilla y Convidado de piedra)』(1630年、 モリーナ作ではないとする説あり[要出典]。ドン・ファンが非道徳的行動をすることで道徳的規範を示す方法)に受け継がれている。

日本のピカレスク小説

現在でもピカレスクは世界各国で盛んに愛読されており、日本国内でも新作が発表され続けている。

日本のピカレスク小説も上述してきたような性格付けを受けた人物を主人公や重要人物として物語が展開される。このような人物が、暴力犯罪の現場や経済市場などにおいて、時に激しく時に華麗に、一般的に悪と言われる行為を行ってゆき、一度は成功を収めるものの、結末において零落・破滅するのが和製ピカレスクの基本フォーマットとなっている。「光クラブ事件」に材を取った高木彬光の『白昼の死角』などがその典型である[注釈 3]。また、欧米の作品と比較すると、宗教的背景や社会・文化的背景、生活感は比較的希薄である一方、ハードボイルドニヒリズムダンディズムと密接に結びついている場合が多い事も、特徴として言える要素である[要出典]

他方、主人公の悪漢が巨悪や猛悪に立ち向かうという構図で描かれる物語の場合、主人公が行う悪の行為は、結局は「正義のイメージ[注釈 4]」のみを持ち、結末に至っても主人公が生き残るというパターンが、かなりの割合で存在するのも和製ピカレスクの大きな特徴と言える[注釈 5]

日本でピカレスク小説で知られた作家には、今東光阿佐田哲也大藪春彦馳星周などがいる。馳星周の作品については、人間の暗部を深く抉るように描写して行く傾向が色濃く、アメリカのジム・トンプスンなどに代表される暗黒小説に色分けすることもできる。

また、これらとは別に、悪漢を主人公とした軽いタッチの「ピカレスク風」とでも呼ぶべき小説も様々な作家によって多く書かれている。生島治郎の『悪人専用』や『暗黒街道』などがその例として挙げられる。また、スポーツ新聞や男性週刊誌などに連載される官能小説でも、色事師結婚詐欺師といった悪漢を主人公としたピカレスク小説の要素を持つものが存在していた。これらは本来のピカレスク小説に比して娯楽小説の要素が強い。

また、上述してきたような性格のキャラクターを物語の中核に据えた時代小説も少なくない。いずれも講談の『天保六花撰』を材に取った子母沢寛の『河内山宗俊』や藤沢周平の『天保悪党伝』などがその例として挙げられる。

脚注

注釈

  1. ^ La Vida de Lazarillo de Tormes y de sus fortunas y adversidades、普通は『ラサリーリョ・デ・トルメス』と略す。
  2. ^ Vida del Picaro Guzmán de Alfarache、普通は『グスマン・デ・アルファラーチェ』と略す。
  3. ^ 1979年に本作が角川映画によって映画化された際には、「反逆のピカレスク・ロマン」というキャッチコピーが使用された。
  4. ^ この「正義」はあくまで社会的、実定法的な正義とは一致しない。
  5. ^ このパターンの最典型はアニメ版の『ルパン三世』である。この作品では主人公一味が窃盗行為を華麗に実行しようとした結果、時に一国や地球的な規模の巨悪までをも粉砕する展開がストーリー定型の一つになっている。

出典

  1. ^ 会田由(訳) 1990, pp. 123–124.
  2. ^ 会田由(訳) 1990, p. 123.
  3. ^ 会田由(訳) 1990, pp. 119–122.

参考文献

  • フランシスコ デ・ケベード 『ピカレスク小説名作選』 牛島信明、竹村文彦訳、国書刊行会《スペイン中世・黄金世紀文学選集》、1997年
  • 鹿島茂 『悪党が行く ―ピカレスク文学を読む』 角川学芸出版《角川選書》、2007年
  • 会田由(訳)『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』岩波書店、1990年。ISBN 4003272013 

関連項目


悪党 (小説)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/27 01:48 UTC 版)

悪党
著者 薬丸岳
発行日 2009年7月31日
発行元 角川書店
日本
言語 日本語
形態 四六判
ページ数 312
公式サイト /www.kadokawa.co.jp
コード ISBN 978-4-04-873974-0
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悪党』(あくとう)は、薬丸岳による日本小説。『野性時代』の2007年11月号、2008年3月号・5月号・8月号・11月号、2009年3月号に掲載された[1]

2012年にはフジテレビ系の「金曜プレステージ」枠で、2019年にはWOWOWの「連続ドラマW」枠でドラマ化。

書籍情報

あらすじ

姉をレイプ事件で殺害された過去を持つ私立探偵の佐伯修一は、依頼人からの様々な依頼をこなしながら、かつて姉を死に追いやった元少年の3人の行方を探していた。

ある日、ある老夫婦から、11年前に息子を殺し刑期を終え出所している加害者を探し、彼を赦すべきかどうか、その判断材料を探してほしいとの依頼を受ける。

登場人物

ホープ探偵事務所

佐伯 修一(さえき しゅういち)
『ホープ探偵事務所』調査員。元警察官。29歳。中学生の時に、姉・ゆかりがレイプされ殺害された事件が起こり、心に深い傷を負う。
4年前、パトロール中にレイプの現行犯に遭遇し、姉の事件への怒りがこみ上げ、犯人の口に拳銃を突っ込んだことを問題視され、懲戒免職になった。職を失い自暴自棄になっていた時に、木暮にスカウトされた。
木暮 正人(こぐれ まさと)
ホープ探偵事務所所長。12年前まで埼玉県警に勤めていた。ほとんど仕事がなかったが、細谷の依頼を受けてから、犯罪被害者を対象とした、犯罪前歴者(加害者)の追跡調査を始める。
染谷(そめや)
ホープ探偵事務所事務員。「お染さん」と呼ばれる。

その他

田所 健二(たどころ けんじ)
ゆかりを殺した少年グループの1人。事件後、警察に促されて佐伯家に謝罪に訪れた両親は、「(主犯格の少年に脅されて仕方なくやったため)うちの子も被害者」だと主張した。
現在は、武蔵境で人気ラーメン店を営んでおり、全国チェーンの飲食店の経営者の娘と婚約している。
寺田 正志(てらだ まさし)
ゆかりを殺した少年グループの1人。現在はアダルトDVDショップで働いており、過去をネタに成功者である田所を脅迫して金や女遊びをたかる。
榎木 和也(えのき かずや)
ゆかりを殺した少年グループの主犯格。懲役10年の判決が下った。末期の肝細胞癌を患っている。
はるか
「レディージョーカー」のキャバクラ嬢。本名は伊藤冬美。田所を尾行して来店した修一と親密な仲になる。
柏木 俊之(かしわぎ としゆき)
埼玉県警の刑事。修一とは警察学校の同期。

各話登場人物

第一章 悪党
細谷 博文(ほそや ひろふみ)
11年前に息子・健太を殺した坂上が赦すに値する人物かどうかを調査してほしいと、依頼する。
坂上 洋一(さかがみ よういち)
高校2年生の時に学校を中退し、恐喝や窃盗を繰り返していた。中学校の同級生だった細谷健太に暴行を加え、所持していたバイトの給料を奪い逃亡。後に傷害致死容疑で逮捕され少年院に送致された。
現在は、振り込め詐欺のグループのリーダー格をしている。
遠藤 りさ(えんどう りさ)
坂上の恋人。介護ヘルパー。実家の母の医療費を坂上に援助してもらっているが、彼がどんな仕事をしているかは知らない。
第二章 復讐
早見 剛(はやみ つよし)
19歳。3歳の時に母親にネグレクトされ、1歳だった弟を亡くしている。弟を殺した美代子を探してほしいと依頼する。事件後は養護施設で育ち、美代子と同じ姓を名乗りたくないからと養子に入り名を変えた。
前畑 美代子(まえはた みよこ)
剛の生母。当時21歳。シングルマザーだったが、男性との交際に子供が邪魔になり、また子供の世話が疎ましくなり、部屋に鍵をかけて2カ月間放置した。次男が死亡し、保護責任者遺棄致死の容疑で逮捕された。
第三章 形見
松原 弥生(まつばら やよい)
余命幾ばくもない母親の願いを叶えるため、かつて殺人事件を起こし、現在は服役を終え出所している弟の消息を探してほしいと依頼する。弟が自分と同年代の女性を暴行したことに恐怖と嫌悪しか感じず、仮釈放時の身元引受人を拒んだ。
松原 文彦(まつばら ふみひこ)
弥生の弟。18歳の時に婦女暴行殺人犯として逮捕され、服役。家族が仮釈放時に身元引受人になることを拒んだことに憎しみを感じている。母親の形見を渡すと言われ、佐伯と共に弥生の元を訪れる。
第四章 盲目
町村 幸雄(まちむら ゆきお)
勤務先の金を横領した妹が金を貢いでいたと思われる男の正体を突き止めてほしいと依頼する。
町村 優子(まちむら ゆうこ)
幸雄の妹。勤めていた信用金庫から4500万円を横領し、逮捕され服役した。取り調べで沢村のことは一切話さなかった。
沢村 祐二(さわむら ゆうじ)
優子が交際していた男。彼女に名乗っていた名前は偽名で、職業もでたらめだった。
第五章 慟哭
鈴本 茂樹(すずもと しげき)
55歳。弁護士。刑事事件の加害者の弁護人を数多く務めてきたが、自身が被害者遺族となって信念が揺らぎ始め、かつて自分が弁護した少年が更生しているかどうかの調査を依頼する。
久保田 篤史(くぼた あつし)
12年前に強姦事件で逮捕された。20歳で初犯ということを強調した鈴本の弁護によって懲役2年の判決が下った。

テレビドラマ

2012年版

2012年11月30日に金曜プレステージ特別企画として放送。滝沢秀明渡哲也は、2008年11月に放送されたテレビ朝日系ドラマ『告知せず』以来約4年ぶりの共演となり、2012年11月23日に行われたこのドラマの完成披露会見にも揃って出席した[2]視聴率13.1%[要出典]

キャスト(2012年版)

佐藤仙學、吉田智則飯沼千恵子大橋一三谷本一田実陽子、法福法彦、草野速仁加藤満嶋崎伸夫小西成弥池崎美盤清水一希檜尾健太森聖矢 ほか

スタッフ(2012年版)

フジテレビ系 金曜プレステージ
前番組 番組名 次番組
悪党
(2012.11.30)
緊急追悼特別番組
さようなら勘三郎さん 独占密着…最期の日々
(2012.12.7)

2019年版

2019年5月12日から6月16日までWOWOWの「連続ドラマW 日曜オリジナルドラマ」枠にて『悪党〜加害者追跡調査〜』のタイトルで放送[3]東出昌大は連続ドラマ初主演。

キャスト(2019年版)

スタッフ(2019年版)

  • 監督 - 瀬々敬久
  • 脚本 - 鈴木謙一
  • 音楽 - 大間々昂
  • プロデューサー - 武田吉孝、下田淳行、星野秀樹
  • 制作協力 - ツインズジャパン
  • 製作著作 - WOWOW
  • ポストプロダクション-ヒューマックスシネマ
WOWOW 連続ドラマW 日曜オリジナルドラマ
前番組 番組名 次番組
絶叫
(2019年3月24日 - 4月14日)
悪党
(2019年5月12日 - 6月16日)
神の手
(2019年6月23日 - 7月21日)

脚注

外部リンク


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