孔食・すきま腐食
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 16:24 UTC 版)
ステンレス鋼の場合、全面腐食よりも、材料中の一部分で腐食が進む局部腐食の方が実用上の問題となることが多い。特にステンレス鋼で問題となる局部腐食は「孔食」「すきま腐食」「粒界腐食」「応力腐食割れ」などがある。 孔食とは、全体的には腐食が進んでいない状況にもかかわらず材料中の一部分が穴状に浸食する形態の腐食である。具体的な破壊モデルは種々提案されているが、不働態皮膜が電気化学的あるいは機械的に局所的に破壊されると、そこから孔食が発生する。ハロゲンイオンを含む水溶液環境中で孔食は起こりやすく、特にステンレス鋼の場合は塩化物イオン(Cl−)を含む水溶液中で孔食が起こりやすい。外部との液交換が難しいピット(孔)中では、ピット中の溶存酸素が消費されて、ピット中は溶解金属イオンが過剰な状態となる。電気的中性を保つために、外部の Cl− が電気泳動でピット中に引き寄せられ、ピット内で金属塩化物ができる。金属塩化物はすぐに加水分解して、ピット内部の pH はさらに低下し、ピット内部で腐食が進む。塩化物イオンの場合はこのような機構によって孔食が進むと考えられている。 孔食に対するの耐食性向上には、クロム、モリブデン、窒素、ケイ素、タングステン、レニウムなど添加が有効である。特に、クロムとモリブデンが耐孔食性向上の元素として挙げられる。合金元素量から耐孔食性の指標を計算するものとして、耐孔食指数 (Pitting Resistance Equivalent Number, PREN または Pitting Resistance Equivalent, PRE) が知られている。よく使われる PREN の式は PREN = %Cr + 3.3 × %Mo + n × %N と表される。窒素(N)の影響力を意味する係数 n の値は研究者によって異なり、n = 16 がよく使われる。ただし、オーステナイト系には n = 30 の方がより適当ともいわれる。フェライト系の場合は n = 0 で計算する。PREN が40以上の鋼種を「スーパーステンレス鋼」と呼ぶ。 また、ステンレス鋼中の非金属介在物は、孔食発生の核となり、有害であることが知られる。特に硫化マンガン(II) (MnS) の介在物が有害である。このため、組成の制御や表面処理による MnS の除去が耐食性改善に有効である。使用上の対策としては、できるだけ Cl− 濃度および温度が低い環境で使用することが望ましい。日常生活の例でいえば、台所周りでステンレス鋼に付着した塩や醤油などを放置すると、孔食が発生・進行する恐れがある。 すきま腐食とは、だいたい 0.01 mm 程度の微小なすきまで起こる腐食で、すきま内部で局所的な腐食が進む。ステンレス鋼表面に付着した異物の下から、あるいはボルト・ナット締結部やフランジ継手のような構造上のすきま部から、すきま腐食が起きる。 すきま腐食では閉鎖環境として機能するすきまが最初から存在する点が孔食と異なるが、すきま腐食の腐食進行機構は孔食と本質的には同じである。対策も同様に、クロムやモリブデンの合金元素添加、低 Cl− 濃度環境での使用が有効である。また、構造上のすきまができるだけないように配慮することも必要である。
※この「孔食・すきま腐食」の解説は、「ステンレス鋼」の解説の一部です。
「孔食・すきま腐食」を含む「ステンレス鋼」の記事については、「ステンレス鋼」の概要を参照ください。
- 孔食・すきま腐食のページへのリンク