周北極要素以外の高山植物について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/08 08:48 UTC 版)
「日本の高山植物相」の記事における「周北極要素以外の高山植物について」の解説
日本の高山植物には、北極海周辺以外の地域からやってきたと考えられるものも見られる。まず日本では白馬岳のみで見られるタカネキンポウゲや、利尻山のみで見られるボタンキンバイは、それぞれ約4000キロも離れた西シベリアのアルタイ山脈に自生するアルタイキンポウゲ、アルタイキンバイが近縁種であると考えられている。本州中央部の高山帯のキンポウゲ属には、その他八ヶ岳の固有種であるヤツガタケキンポウゲと北岳の固有種であるキタダケキンポウゲがある。ともにヒマラヤ山脈周辺に分布するキンポウゲ科の植物と近縁と考えられ、ヒマラヤ山脈周辺に分布する近縁種の中には、ヤツガタケキンポウゲ、キタダケキンポウゲに類似した特徴を持った個体も確認されている。これらのことから、北極海周辺以外のアルタイ山脈やヒマラヤ周辺から日本列島の高山帯まで分布を広げ、現在は日本の一部の高山帯と、それぞれアルタイ山脈、ヒマラヤ周辺に生き残った種があることがわかる。 また、高山植物の宝庫であるお花畑を代表する高山植物の一つであるハクサンイチゲは、日本では中部地方の高山帯から東北、北海道の高山帯に連続的に分布しているが、北極海周辺には広く分布せず、それより南になる千島列島からカムチャッカ半島、そしてアラスカ付近に分布の中心がある。これはハクサンイチゲが環太平洋地帯を中心とした、どちらかといえば海洋性の分布を示しており、またカムチャッカ半島やアラスカでは山地に分布していることから、もともと山地を起源とした植物が高山帯に進出し、現在の日本の高山帯で見られる高山植物となったものと考えられている。ハクサンイチゲと似た分布を示す高山植物は、チングルマ、シナノキンバイ、フウロソウなどが挙げられ、高山草原から雪田や高層湿原といった湿性の環境に生育する種に見られる。 第四紀後期に火山活動によって現在の山体が形成された富士山は最終氷期以降に現在の標高に達したと考えられ、生育する高山植物は少ない。しかしヒメシャジン、クルマユリ、イワオウギ、タイツリオウギ、フジハタザオなどの高山植物が分布し、富士山に比較的近接する赤石山脈の高山植物相に類似が見られる。このことは高山植物の中には現在も分布を広げている種があることを示唆している。また富士山や中部地方の高山帯には、中国から日本にかけての東アジアの低地に広く分布する、イタドリの高山タイプの変種であるオノエイタドリが生育している。オノエイタドリは富士山では標高約2600メートルの高地まで分布している。高いものでは2メートルになる低地のイタドリと比べてオノエイタドリは高さが低く、約70センチ程度にしかならない。また葉も小さく、茎や葉の縁などに赤いアントシアン色素が沈着していて、標高が高い高山環境の強い紫外線などから植物体を守る仕組みが見られる。そして花芽の形成時期も低地種よりも約1ヵ月以上早く、高山の早い冬が到来する以前に種子を作るようになっており、種子の重さも低地種と比べて重く、また低温など幅広い温度条件で発芽が可能で、早い発芽と重い種子によって早い生長が図られるようになっている。このように現在も高山植物の分布は変化し続けていると考えられるとともに、低地や低山帯に起源を持つ植物も高山帯に適応して、分布を広げていく種があることがわかる。
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