卵細胞の成熟
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/28 06:54 UTC 版)
生殖細胞である卵細胞はもともとは2n=46本の染色体に相当するデオキシリボ核酸 (DNA) を持っている細胞だが、精子と受精する前に減数分裂を行う。この事により、あらかじめ核内のDNA量を半分に減らし、n=23本の染色体の分のDNAだけを持つようになり、受精に備える。減数分裂は2回の細胞分裂が引き続き起こる現象で、その各段階で卵細胞は下記のような異なった名称で呼ばれる。 卵祖細胞(卵原細胞) 減数分裂前の細胞。ヒトの場合胎児にのみ存在 1次卵母細胞(卵母細胞) 減数分裂第1分裂の途中の細胞。 2次卵母細胞(卵娘細胞) 減数分裂第2分裂の途中の細胞。 卵子(卵) 減数分裂完了後の細胞。精子の核と核融合をすると、2n=46本のDNAを再び持つことになり、胚発生が始まる。 ヒトの卵細胞の減数分裂は、女性の半生を通して起こる長い現象である。胎児の卵巣内にある卵細胞は、卵祖細胞あるいは卵原細胞である。出生前後までには、すべての卵祖細胞は1回分裂し、1次卵母細胞になる。生まれた後、思春期になるまでは、原始卵胞の中の卵細胞はこのまま1次卵母細胞である。卵胞が発達をはじめ、排卵直前の成熟卵胞になると、更に1回の分裂を行い、2次卵母細胞になる。排卵されたときにも卵細胞は2次卵母細胞の状態であり、その後精子との受精が刺激になって最後の分裂が起こり、卵子となり、精子の核と核融合を行う。つまり出生前から始まった減数分裂は、排卵された後までかかって完了する。 女性の場合、高齢での出産は染色体や遺伝子の先天的な異常の確率が上昇することが知られているが、これは減数分裂に非常に長い時間がかかることと密接に関係している。減数分裂など、細胞分裂の途中の細胞は、放射線や化学物質など、DNAにダメージを与える因子の影響を受けやすい。これは、出生後ずっと減数分裂の途中で止まっている卵母細胞がDNA損傷を受けやすいことを意味している。このため、単純に考えて、20歳の女性の卵細胞と比べて、40歳の女性の卵細胞は、環境中の因子の影響を2倍多く受けており、それだけDNAが損傷を起こしている確率が高いことになる。 卵細胞の減数分裂が、通常の細胞分裂や精子形成過程の減数分裂と異なる点は、分裂後の2個の細胞が同じ大きさでないことである。核が2個に分裂しても、それを囲む細胞質は2つに分かれず、どちらか一方の核が、卵細胞の細胞質からはじき出されるように排除される。はじき出された核を極体(きょくたい)と呼ぶ。減数分裂の第1分裂、第2分裂それぞれで極体が放出されるので、それぞれを第1極体、第2極体と呼ぶ。このシステムは、最終的に1個だけが必要な卵細胞の形成過程で、細胞質の量を減らさないのに役立っていると考えられている。卵細胞の細胞質は、受精卵のその後しばらくの間の栄養分、遺伝子発現情報などを含んでいる。
※この「卵細胞の成熟」の解説は、「卵巣」の解説の一部です。
「卵細胞の成熟」を含む「卵巣」の記事については、「卵巣」の概要を参照ください。
- 卵細胞の成熟のページへのリンク