刑事控訴審の判断
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/12 05:02 UTC 版)
「橋北中学校水難事件」の記事における「刑事控訴審の判断」の解説
各種の証拠を総合して、名古屋高等裁判所は次のような判断を下している。当日、生徒の入水後2,3分した頃沖合いから突然大きなうねりが女子水泳場附近一帯に押しよせ、それとともににわかに強い北流がでてきて、このうねりのために女子水泳場は沖側の境界線附近でさえ1m足らずの水深でしかなかったのに1m4,50cm位に水位を増した。ところが女生徒の大部分は泳げない者や水に対する抵抗力の弱い者で占められていたので、過半数の百名余がその急激な水位の上昇に狼狽して身体の自由を失ったところへ、にわかに強くなった北流のために押し流され、女子水泳場の東北隅の内外附近一帯で一斉に溺れるに至った。つまり原因は大きなうねりとともに多数の女生徒を押し流した異常な流にあるものとしている。 この「異常な流がどうして発生したのかという点に関する科学的な解明は当裁判所のもとよりよくするところではないが」という記述が見られるが、そのとおり発生原因の科学的解明が不可能だといっているわけではない。この異常流の発生原因については蹴波説によるうねりが接岸時に北流を生じ、沿岸流説あるいは副振動説による弱い北流と合体して強い異常流を形成したのではないかとしている。隣接する男子水泳場にいた男生徒のかなり多数がこのようなうねりや異常流を意識しなかったことについては、男生徒は水に対する抵抗力が十分にできていること、文化村海岸南方の突堤が男子水泳場側にあること、澪筋が女子水泳場側にあること、その他の地形の差異からする局部的な現象の相違と考えられないこともないとしている。ただし、これについて「なお若干の疑がないではないが」と述べている。 このように事故の原因は急激な水位の上昇と異常流の発達という不可抗力にあるとして、さらに「風波のない快晴のいわゆる海水浴日和にこのような事態の発生を見ることはあまりにも稀有な現象であるから、通常人の注意力をもってしてはとうていこれを予見し得ない」と述べている。 さらに「被告人等の刑事責任を追及することによって犠牲者等の霊が瞑目されるものではなく、却って水の恐しさにおびえつゝ慈愛に充ちた先生等の日頃の薫陶を慕いつゞけることができるであろうと考え只管その冥福を祈る次第である。」と教諭らの教育を認め犠牲者を思いやる文章で結んでいる。 なお、名古屋高検はこの2審判決の推論に対し、異常潮流があったことは認めるが、貨物船の蹴波がどのような形で海岸に押し寄せ、しかも女子水泳場にだけ異常潮流を起したかについて何も触れず納得できない、これは経験法則の法違反、つまり常識では考えられない判決だとしたものの蹴波は距離的、地形的な理由で否定できるが、ではなぜ異常潮流が起こったかという科学的根拠は、裁判所同様検察にも断定できる材料がなく、最高検とも打ち合わせて上告しないことに決めた(伊勢新聞、1961年2月7日)。これにより教師側の無罪が確定した。
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