公用収用と正当な補償(29条3項)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/08 21:09 UTC 版)
「財産権」の記事における「公用収用と正当な補償(29条3項)」の解説
詳細は「損失補償」を参照 憲法第29条第3項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」と規定する。 財産権の侵害に対する補償の基準は、財産権の規制内容についての二重の基準に対応する。 財産権に対する内在的制約ないし消極的目的での規制による場合には原則として損失補償を必要としない。ただし、財産権の本質を奪うような場合や特定人に対して特別に財産上の犠牲を強いることになる場合には補償が必要となる場合がある。 財産権に対する政策的制約ないし積極的目的での規制による場合には原則として損失補償を必要とする。ただし、財産権に対する侵害が軽微な場合ないし一般的なものである場合には補償を必要としない場合がある。 憲法第29条第3項の「正当な補償」の意味については、完全補償説、相当補償説、中間説がみられる。 完全補償説完全補償説とは、憲法第29条第3項の「正当な補償」として必ず完全の補償をしなければならないとする学説である。 相当補償説相当補償説とは、憲法第29条第3項の「正当な補償」とは、公共の必要性、社会的・経済的事情などを考慮して決められる合理的な相当額であるとする学説である。 中間説完全補償と相当補償は二者択一的ではないとして損失補償の原因となる財産権の侵害ごとに完全な補償を必要とする場合と相当な補償で足りる場合があるとする学説が有力になっている。その分類の基準について学説は多岐にわたる。 学説の傾向としては、特別の場合(農地改革や産業の国有化・社会化立法など社会変革を目的とする場合)を除き、国の通常の政策実現に際して生ずる損失の公平負担という見地からすれば、収用等の前後で財産的価値に増減がないということをもって正当な補償と考え原則完全補償をとるべきとみられるようになっている。 判例では、最高裁は農地改革における農地買収の対価の合憲性について「憲法二九条三項にいうところの財産権を公共の用に供する場合の正当な補償とは、その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基き、合理的に算出された相当な額をいうのであって、必しも常にかかる価格と完全に一致することを要するものでない」と相当補償説の立場を示した(最大判昭和28年12月23日民集第7巻13号1523頁)。しかし、土地収用法による損失補償については最高裁は「土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によって当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要する」と完全補償を必要としている(最判昭和48年10月18日民集第27巻9号1210頁)。 私有財産を公共のために用いることを定める法律が補償規定を欠いている場合をめぐって憲法第29条3項の法的性格に関する争いがある。 プログラム規定説(立法指針説)憲法29条3項はいわゆるプログラム規定であるとする学説。 違憲無効説補償規定を欠く法律は憲法29条3項に照らして違憲無効であるとする学説。 請求権発生説法律が補償規定を欠く場合には憲法29条3項に基づいて直接補償請求をすることができるとする学説。 判例では、最高裁が河川附近地制限令事件の判決で、河川附近地制限令第4条について「同条に損失補償に関する規定がないからといつて、同条があらゆる場合について一切の損失補償を全く否定する趣旨とまでは解されず、本件被告人も、その損失を具体的に主張立証して、別途、直接憲法二九条三項を根拠にして、補償請求をする余地が全くないわけではない」として憲法29条3項に基づいて直接補償請求をすることを認めた(最大判昭和43年11月27日刑集第22巻12号1402頁傍論)。この判決を契機に学説でも補償請求権を憲法上の具体的権利と解することが一般的に承認されるに至っている。
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