保存の課題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/14 16:44 UTC 版)
史跡指定されていない城跡は元より、史跡として保存対象とされている城郭の石垣であっても内側からの圧力により石垣が外側に膨らむ「孕み」が問題となっている。妊婦の腹部のように脹らむことから「孕み」と言われている。記述例として、『下総国古河城石垣修復絵図 正徳3年(1713年)8月』 (中根家所蔵)には、本多忠良が幕府宛てに、「御成門の石垣の孕みを修理したい」といった内容の記述が確認できる。 原因としては、経年の荷重による変形や崩れ、石垣の近くに植えられた樹木の根が押し出していること、石垣を補強するため隙間に詰められたモルタルなどが雨水の排水を妨げていることなどが考えられる。高松城では2003年に台風の影響により、仙台城や白河小峰城では2011年に東日本大震災の影響により石垣が崩落しているが、崩壊を誘発した原因のひとつとして「孕み」が指摘された。なお、仙台城では孕みによる歪みや水分によって発生した苔が目に余る状態であったため、宮城県沖地震への備えとして、1980年代から本丸の防衛を担う最も大規模な大手門側など主要な部分について大修復を行った。基礎から全て解体、石を一つ一つナンバリングするなど管理を徹底し、調査後に積み直し、あわせて各種排水、計測計器も設置して備えていた。結果として、震災で崩れたのは石灯籠や本丸裏側の未修復の小規模な部分のみであり、修復した石垣はほとんど被害を受けなかった。本丸石垣の真下には県道が走っており、当時混乱による渋滞で車両がすし詰め状態であったが、本震で車両一台分ほど崩れた前述の裏側以外は盤石のままで、倒壊による事故は防がれている。近年の大規模な修復には、弘前城で天守を曳家して天守下の石垣を修復する工事がある。 石垣の孕みは全国各地の城郭で見られている現象だが、城郭の石垣については対策の指針や研究資料が少なく、また、市民に親しまれている史跡公園の木々を安易に伐採することも困難であることから、文化財を管理する国・自治体を悩ませている。
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