体内分布
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/27 15:09 UTC 版)
薬の動態は脂溶性や分子量や電荷などに代表される薬物の物理化学的性質と血流や臓器サイズなどの生体側の特徴で決まる。薬物の分子量が大きくなるにつれて薬物が移行可能な臓器や組織は制限される。特に脳や筋肉では毛細血管の内皮細胞が連続内皮であるために毛細血管の透過は制限される。核酸医薬の基本単位であるヌクレオチドの分子量は310~330程度であり、修飾核酸でもその値は大きく変わらないことが多い。核酸医薬では最小のもので分子量4,000程度であり、2本鎖RNAであるsiRNAの場合は分子量13,000程度になる。分子量4000程度の最小の核酸医薬であっても連続内皮の毛細血管を自由に通過することはできない。分布可能な臓器は肝臓、脾臓、腎臓、骨髄など有窓内皮、不連続内皮から構成される毛細血管のある臓器である。例外として固形がん組織では正常組織と比べて新生血管の増生と血管壁の著しい透過性の亢進があることから数十nmサイズのキャリアが固形がん組織に集積しやすいことが知られEPR効果(enhanced permeation and retention effect)といわれる。EPR効果によって高分子が蓄積しやすい固形腫瘍には核酸医薬も到達可能である。実際に静脈内や腹腔内に投与された核酸は、これらの臓器に集積する傾向がある。もうひとつの例外が筋ジストロフィーにおける筋組織である。通常は筋組織は連続型毛細血管をもつため核酸医薬は通過できない。しかし筋ジストロフィーのように筋細胞の壊死・再生が活発な病態では筋組織に効率よくオリゴヌクレオチドが取り込まれる。 分子量が約40,000以下の高分子の場合、あるいは5nm未満のサイズの場合は腎臓の糸球体濾過も体内動態を決定する過程として重要である。タンパク結合率が低い場合には、循環血液中の核酸医薬は速やかに糸球体濾過によって血中濃度が減少する。またマクロファージなどの細胞に発現するスカベンジャーレセプターなどは、ポリアニオンを認識し、これをエンドサイトーシスにより取り込み、分解することが知られている。天然型の核酸はリン酸ジエステル結合を有するポリアニオンであることから、ポリアニオンを認識する機構により除去されることが報告されている。特に100nm以上のサイズになると肝臓や肺などに存在する貪食細胞によって認識されやすく排除されてしまう。 天然型のリン酸ジエステル結合からなる核酸はヌクレアーゼにより速やかに分解される。核酸医薬の作用は量反応関係があるため分解や消失による濃度減少を抑制することは非常に重要である。核酸が体内で速やかに分解される現象の対策としてホスホチオエート化に代表される安定化誘導体が開発されてきた。また多くの核酸医薬は腎糸球体の濾過の閾値よりもサイズが小さい。したがって、血液中で血漿タンパク質と結合しない場合は速やかに腎排泄される。この過程は分子サイズに依存することからポリエチレングリコール(PEG)などの高分子修飾や高分子修飾やタンパク結合性を増大することで速やかな腎排泄の制御が可能と考えられている。
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