ミトコンドリアにおける電子伝達系
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 07:41 UTC 版)
「電子伝達系」の記事における「ミトコンドリアにおける電子伝達系」の解説
ほとんどの真核生物細胞はミトコンドリアを持ち、クエン酸回路、β酸化、タンパク質代謝の生成物(NADHやFADH2)からATPを合成する。ミトコンドリア内膜では、NADHとコハク酸由来の電子が電子伝達系を通って酸素に渡され、酸素は水に還元される。電子伝達鎖には、電子供与体と電子受容体に関わる一連の酵素が含まれる。各々の電子供与体は、電気陰性度がより低い電子受容体に電子を渡し、この電子は次の電子受容体に与えられ、この一連のプロセスは、この鎖で最も電気陰性度が低い酸素に電子が届くまで続く。電子供与体から電子受容体に電子が渡されるとエネルギーが放出され、このエネルギーによりプロトンポンプを動かすことで、ミトコンドリア膜の内外にプロトン勾配が形成される。この全体のプロセスでは、水素の酸化エネルギーを用いてADPがATPにリン酸化されるため、酸化的リン酸化と呼ばれる。 ミトコンドリアの電子伝達系では、4つの膜結合複合体が同定されており、各々が非常に複雑な膜貫通構造によって内膜に埋め込まれている。この構造は電気的に、脂質可溶電子キャリア、水可溶電子キャリアと繋がっている。 複合体I - NADH:ユビキノン還元酵素 (水素イオン輸送型)(EC 1.6.5.3) 複合体II - コハク酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.3.5.1) 複合体III - 補酵素Q-シトクロムcレダクターゼ(EC 1.10.2.2) 複合体IV - シトクロムcオキシダーゼ(EC 1.9.3.1)、 この順番に、電子は一連の酸化還元反応を通してNADHやユビキノール等の電子供与体から、最終的な電子受容体である酸素分子に移動する。これに伴い、複合体I、複合体III、複合体IVがプロトンポンプ機構ならびにスカラー反応を起こして、プロトンを膜外に能動輸送する。複合体IIは好気呼吸におけるプロトン濃度勾配形成には寄与しないが、電子伝達系の一部である還元型ユビキノンを生じる。 複合体Iは、クエン酸回路の電子キャリアであるNADHから電子を受け取ってコエンザイムQ(ユビキノン)に渡す。ユビキノンは複合体IIからも電子を受け取る。ユビキノンは複合体IIIに電子を渡し、次いでその電子はシトクロムc、複合体IVに順に渡り、ここで電子と水素イオンは、酸素分子を水に還元するために用いられる。 NADH+H+ ↓複合体 I ↓ ← 複合体 II ← コハク酸ユビキノン ↓複合体 III ↓シトクロム c ↓複合体 IV ↓ O2 電子の伝達によって得られたエネルギーは、ミトコンドリアマトリックスから膜間空間にプロトンを汲み出すのに用いられ、このとき輸送されたプロトンによりミトコンドリア内膜の内外に、ΔΨと呼ばれる電気化学的ポテンシャル(プロトンによって生じるpH差および電荷の差)が作り出される。これがプロトン駆動力の原動力となり、ATP合成酵素がマトリックス側に戻るプロトンを利用して、ADPと無機リン酸からATPを合成する(酸化的リン酸化)ことが可能となる。 一連のプロセスを経ず、酸素に直接渡される電子もわずかに存在し、酸化ストレスをもたらし病気や老化を引き起こすと考えられている超酸化フリーラジカルを形成する。
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