ミトコンドリアDNAを利用した研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/04 04:24 UTC 版)
「ミトコンドリアDNA」の記事における「ミトコンドリアDNAを利用した研究」の解説
ミトコンドリアDNAは、母親から子に受け継がれる特性を生かして、家系を追跡するための研究に利用される。 有名なものにはブライアン・サイクス著『イヴの七人の娘たち(原題The Seven Daughters of Eve)』 がある。現代のヨーロッパ人はほぼ7つのクラスター(群)に分けることができ、理論的にそのクラスターの元となる配列をもたらしたのは、旧石器時代の7人の女性だと考えられる。更にアジアやアフリカ人の遺伝子も検証したところ、現代に生きる世界中の人々の母系先祖はアフリカの1人の女性であると推定することができるという、いわゆるミトコンドリア・イブの理論も同様の分析に基づくものである。 また、Svante Pääboらは、ヨーロッパのイヌの先祖を追いかけて母系の4系統へとさかのぼる研究を発表している。 但し、ミトコンドリアDNAは母系をたどることしかできないため、人類の系統や移住の足跡をたどるためには、学問的には不十分である。そのため人類の足跡をたどるためには、父系の系統のみをたどることができるY染色体の分析と併せ検証するか、或いは人類の核DNAそのものを分析する必要がある。 一例として、南アメリカのコロンビア人を調査したところ、ミトコンドリアDNAは、ほぼ全ての人がモンゴロイド系の特徴を持っていたが、Y染色体はほぼ全てがヨーロッパ系コーカソイド(特にスペイン人)に特徴的なタイプのみであった。逆に東ヨーロッパの諸民族のミトコンドリアDNAはほぼ全てコーカソイド系であったが、Y染色体及び核DNAにはモンゴロイド系の特徴を持っている人々が少なからず発見された。 ナショナルジオグラフィック協会のジェノグラフィック・プロジェクトのプロジェクト・ディレクターであるスペンサー・ウェルズ博士は、人類が最初に出アフリカを果たした時から、約5万年にも及ぶ人類の移動経路を明らかにするためにY染色体やミトコンドリアDNAなどの遺伝子データを用いて研究を行っている。 「ミトコンドリアDNAハプログループ」も参照 また、犯罪の現場で毛髪が見つかったがDNA型鑑定が行なえないような場合に(自然に落ちた毛髪などは、毛根部分にDNA鑑定の対象にする組織が残っていない事がある)、ある人物を容疑者として捜査の対象に含めておくべきか、外してもよいかを決定する判断材料として、毛髪内のミトコンドリアDNA(毛髪内でもミトコンドリアDNAは残存している)が利用される。 ミトコンドリアによる系譜の研究がすすめられた時期は「遺伝的刷り込み」と呼ばれる現象が遺伝学的にまだ考慮されていなかったため、ミトコンドリア遺伝子が「母親由来のゲノムからのみ発現する遺伝子群(Maternally expressed genes、MEG)」であるとすれば、男性の身体では単に非発現状態で休眠しているだけであり、この論は齟齬を含んでいるのではないかという人があるが、父親と母親から一つずつ一対の遺伝子を受け継ぐことになっている核DNAで、一方の遺伝情報を発現させるために起こる遺伝的刷り込みが、環状のミトコンドリアDNAに対してどう関係するのかという疑問がある。
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