複合体IIIとは? わかりやすく解説

ユビキノール-シトクロムcレダクターゼ

(複合体III から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/26 02:12 UTC 版)

ユビキノール-シトクロムcレダクターゼ
識別子
EC番号 7.1.1.8
CAS登録番号 9027-03-6
データベース
IntEnz IntEnz view
BRENDA BRENDA entry
ExPASy NiceZyme view
KEGG KEGG entry
MetaCyc metabolic pathway
PRIAM profile
PDB構造 RCSB PDB PDBj PDBe PDBsum
遺伝子オントロジー AmiGO / QuickGO
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ユビキノール-シトクロムcレダクターゼ(ubiquinol-cytochrome-c reductase)またはシトクロムbc1複合体(cytochrome bc1 complex)もしくは単に複合体III(complex III)は、電子伝達系の3番目の複合体で、生化学的なATP合成(酸化的リン酸化)において重要な役割を担っている。複合体IIIは、ミトコンドリア遺伝子シトクロムb)と遺伝子(それ以外のサブユニット)の両方にコードされているマルチサブユニット膜貫通リポタンパク質である。複合体IIIは、全ての動物のミトコンドリア、全ての好気性真核生物、およびほとんどの真性細菌の内膜に存在する。複合体IIIの突然変異は、多系統疾患や運動耐容能低下の原因となる。

構造

複合体IIIの構造

他の主な電子伝達系のプロトンポンプと比べて小さく、3つのポリペプチド鎖から構成される。高等動物では11のサブユニットが見られることもある[1]。3つのサブユニットはそれぞれ補欠分子族を持つ。シトクロムbサブユニットは2個のb-タイプヘム(bLbH)を、シトクロムc サブユニットは1個のc-タイプヘム(c1)を、リスケ鉄硫黄タンパク質サブユニット(ISP)は2個の鉄と2個の硫黄からなる鉄硫黄クラスター(2Fe•2S)を持つ。

複合体IIIの構造:PDB: 1KYO​、PDB: 1L0L

反応

酵素反応は補酵素Q(CoQ)の酸化によるシトクロムcの反応と、それに付随するミトコンドリアマトリックスから膜間スペースへの4プロトンの汲み出しからなる。

複合体IIIの内外のプロトンと電子の流れ

複合体IIIの反応機構はQサイクルまたはユビキノンサイクルと呼ばれる。このサイクルでは4プロトンが膜間スペースに放出され、マトリックスからは2プロトンが吸収されることによりプロトンの濃度勾配を作り出している。また、2分子のユビキノールの酸化されてユビキノンとなり、1分子のユビキノンが還元されてユビキノールとなる。放出と吸収のプロトンの数が等しくないのは、2電子が2分子のユビキノールから2分子のシトクロムcに、さらに2電子が2分子のユビキノールから1分子のユビキノンに転移することにより1つのサイクルが達成されるためである。反応の詳細は以下の通りである。

  1. ユビキノンとユビキノールがシトクロムbに結合する。
  2. 2Fe/2S中心とbLヘムがユビキノールからそれぞれ1電子ずつ受け取り、2プロトンが膜間スペースに放出される(ユビキノールはユビキノンとなる)。
  3. 2Fe/2S中心から1電子がシトクロムc1に転移し、bLヘムから1電子がbHヘムに転移する。
  4. シトクロムc1から1電子が膜に結合していない水溶性シトクロムcに転移し、bHヘムから1電子が近傍のユビキノンに転移する(ユビキノンは1プロトンと結合しユビセミキノンとなる)。
  5. シトクロムcとユビキノンが遊離し、ユビセミキノンは結合を保つ。
  6. 別のユビキノールがシトクロムbに結合する。
  7. 2.と同様に、2Fe/2S中心とbLヘムがそれぞれユビキノンから1電子ずつ受け取り、2プロトンが膜間スペースに放出される。(ユビキノールはユビキノンとなる)。
  8. 3.と同様に、2Fe/2S中心から1電子がシトクロムc 1に転移し、bLヘムから1電子がb Hヘムに転移する。
  9. シトクロムc1から1電子が膜に結合していない水溶性シトクロムcに転移し、bHヘムから1電子が近傍のユビセミキノンに転移する(ユビセミキノンは1プロトンと結合しユビキノールとなる。)。
  10. ユビキノンとユビキノールが遊離する[4]

阻害剤

3種類の異なる阻害剤がある。

  • アンチマイシンAはQi部位と結合し、bHヘムからキノンへの電子転移を阻害する。
  • ミキソチアゾールとスチグマテリンはQo部位と結合し、キノールからリスケ鉄硫黄タンパク質への電子転移を阻害する。ミキソチアゾールbLヘムの近傍に結合し、スチグマテリンはリスケ鉄硫黄タンパク質側のQo部位ポケットに結合する。

いくつかは殺菌剤(ストロビルリン誘導体)、抗マラリア薬(アトバコン)として商品化されている。

資料画像

脚注

  1. ^ Iwata S., Lee J.W., Okada K., Lee J.K., Iwata M., Rasmussen B., Link T.A., Ramaswamy S., Jap B.K. (1998) Complete structure of the 11-subunit bovine mitochondrial cytochrome bc1 complex. Science 281: 64-71
  2. ^ Kramer, D. M.; Roberts, A. G.; Muller, F.; Cape, J.; Bowman, M. K. Q-cycle bypass reactions at the Qo site of the cytochrome bc1 (and related) complexes. Methods Enzymol. 382:21-45; 2004. PMID 15047094
  3. ^ Crofts, A.R. (2004). The cytochrome bc1 complex: function in the context of structure. Annu Rev Physiol. 66, 689-733. PMID 14977419
  4. ^ Nicholls, David and Stuart Ferguson. Bioenergetics3. Acociate Press: San Diego, California 2002. pg 114-117

外部リンク


複合体III

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 07:41 UTC 版)

電子伝達系」の記事における「複合体III」の解説

詳細は「ユビキノール-シトクロムcレダクターゼ」を参照 複合体IIIでは複合体Iあるいは複合体IIにて生じたユビキノール酸化してスカラー反応(膜の内側還元反応起こり、それによって膜の外側酸化反応起こってプロトン間接的に放出する機構)によってプロトンを膜外に放出する反応式以下の通りである。 ユビキノール+2シトクロムc (Fe3+) +2H+in → ユビキノン+2シトクロムc (Fe2+) +4H+out 電子伝達体としてシトクロムc還元型を生じ次の複合体IV電子伝達を行う。 複合体IIIでは、ユビキノンサイクルが非対称プロトン吸収/放出によってプロトン勾配作るQO部位ユビキノールから2つ電子除かれ、膜間空間に位置する可溶電子キャリアであるシトクロムc伝達される続いて別の2つ電子Qi部位至り、ここでユビキノンキノン部分キノール還元されるプロトン勾配は、QO部位でのキノール酸化形成されQi部位キノール形成する合計6つプロトン移動する2つキノンキノール還元し、2分子ユビキノールから2つプロトン放出される)。 アンチマイシンA等の作用電子伝達が減ると、複合体IIIから酸素分子直接電子が渡るようになり、超酸化物形成される。 複合体IIIはユビキノールからシトクロム c電子伝達行い正しくは「ユビキノールシトクロムc 酸化還元酵素」と呼ばれる好気呼吸を行う真核生物はすべてミトコンドリア内膜に複合体 III を所持している。また、葉緑体シトクロム b6/f 複合体は複合体 III に対応する。現在、ウシシトクロム bc1 複合体立体構造明らかになっている。複合体 III の構成は以下のようになっているシトクロム bユビキノール酸化を行う) リスケ鉄硫黄タンパク質 シトクロム c1シトクロム c電子伝達を行う) 葉緑体ではシトクロム bヘムb6 であり、シトクロム c1代わりにシトクロム f およびサブユニット IV結合している。 電子伝達は以下の手順で行われるユビキノールリスケ Fe-S タンパク質シトクロム cFe2+ ただし、シトクロム b でのスカラー反応により、以下の電子伝達行われるユビキノールヘム bLヘム bHリスケ Fe-S タンパク質シトクロム cFe2+ 複合体IIIはシトクロム b起源Fe-S タンパク質およびシトクロム c付加されてできたとされている。

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「複合体III」を含む「電子伝達系」の記事については、「電子伝達系」の概要を参照ください。

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