複合体IIとは? わかりやすく解説

コハク酸デヒドロゲナーゼ

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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/28 07:00 UTC 版)

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コハク酸デヒドロゲナーゼ
サブユニット: SdhA, SdhB, SdhC, SdhD
識別子
EC番号 1.3.5.1
CAS登録番号 9028-11-9
データベース
IntEnz IntEnz view
BRENDA英語版 BRENDA entry
ExPASy NiceZyme view
KEGG KEGG entry
MetaCyc metabolic pathway
PRIAM profile
PDB構造 RCSB PDB PDBj PDBe PDBsum
遺伝子オントロジー AmiGO / EGO
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コハク酸デヒドロゲナーゼ succinate dehydrogenase, SDH)は、コハク酸フマル酸へ酸化する酸化還元酵素である。コハク酸脱水素酵素とも。このとき同時にユビキノンなどのキノンを還元することから、コハク酸キノンレダクターゼ(succinate-quinone reductase, SQR)とも呼ばれる。クエン酸回路の8段階目の反応を担い、また呼吸鎖においては複合体II(Complex II)と呼ばれている。真核生物ではミトコンドリア内膜に、原核生物では細胞膜に固定されている酵素複合体である。[1]

反応

触媒する化学反応は次の通りである。

コハク酸 + キノン
ニワトリ由来複合体IIの構造と内部での電子伝達。個々のサブユニットが色分けされており、SdhAは緑、SdhBは水色、SdhCは紫、SdhDは黄色である。

一般的に4つのサブユニットから構成されており、親水性の2つがSdhAとSdhB、疎水性の2つがSdhCとSdhDである[3]

SdhA
フラボタンパク質(Fp)サブユニットとも呼ばれる。補因子としてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)が共有結合しており、その近傍にコハク酸結合部位(後述)が存在している。
SdhB
鉄硫黄タンパク質(Ip)サブユニットとも呼ばれる。[2Fe-2S], [4Fe-4S], および[3Fe-4S]の3種の鉄・硫黄クラスターが含まれている。
SdhC・SdhD
疎水性サブユニット2つで6個の膜貫通ヘリックスとヘムbを含むシトクロムbを構成する。リン脂質であるカルジオリピンとホスファチジルエタノールアミンが結合している。

ヒトの場合、Fpサブユニットに2種類のアイソタイプ(FpI, FpII)が存在している。豚回虫およびシノラブディス・エレガンス(線虫の一種)でもFpサブユニットのアイソタイプが見付かっている[2]

基質結合部位

コハク酸の結合部位はサブユニットAのThr254, His354, およびArg399の側鎖で構成され、そこでFADによる酸化と最初の鉄硫黄クラスター[2Fe-2S]への電子伝達が起きる[4]

ユビキノンの結合部位はSdhB, SdhC, およびSdhDで構成される間隙に位置している。ユビキノンはサブユニットBのHis207、サブユニットCのSer27とArg31、そしてサブユニットDのTyr83のそれぞれの側鎖で安定化されている。キノン環はサブユニットCのIle28とサブユニットBのPro160に取り囲まれている。これらの残基はサブユニットBのIle209, Trp163およびTrp164と、サブユニットCのSer27(炭素原子)と共にキノン結合ポケットの疎水的環境を形成している[5]

酸化還元中心

コハク酸結合部位とユビキノン結合部位の間には、FADと鉄硫黄クラスターから成る酸化還元中心が連なっている。これは複合体をほぼ縦断し総距離は40 Åに達するが、それぞれの酸化還元中心間の距離は、生理的電子移動の限界として提案されている14 Åよりも短い[3]

反応機構

コハク酸酸化:正確なコハク酸の酸化機構はほとんど分かっていない。しかし、結晶構造からサブユニットAのFAD, Glu255, Arg286, およびHis242が最初の脱プロトン過程の候補として挙がっている。したがって、E2もしくはE1cbの2種の可能な脱離機構が考えられる。E2脱離では、塩基性残基または補因子によるα炭素からの脱プロトンが起こり、FADがβ炭素からのヒドリドの受容体として作用することによりコハク酸がフマル酸に酸化される(image 6)。E1cbではFADがヒドリドを受ける前にエノラート中間体が形成する(image 7)。

Image 6: E2コハク酸酸化機構
Image 7: E1cbコハク酸酸化機構

電子トンネル効果:電子はFADを経由してコハク酸から派生したのち、トンネル効果によって[Fe-S]から[3Fe-4S]クラスターに中継される。この電子はその後、活性部位のユビキノン分子まで移動する。鉄硫黄電子トンネル系は図[1]参照。

ユビキノンの還元:ユビキノンのO1カルボニル酸素は、サブユニットDのTyr83との水素結合相互作用によって活性部位において正しい位置に置かれる。さらに[3Fe-4S]鉄硫黄クラスター中の電子の存在により、ユビキノンは2番目の位置に動く。これはユビキノンのO4カルボニル酸素とサブユニットCのSer27との間の2番目の水素結合相互作用により容易となる。まず、一個の電子を受けセミキノンラジカルが形成され、二個目の電子を[3Fe-4S]クラスターから受けることによりユビキノールに完全に還元される(image 8)。

Image 8: ユビキノン還元機構

ヘムの機能:コハク酸デヒドロゲナーゼにおけるヘムの機能はまだ研究段階である。いくつかの研究では、最初に[3Fe-4S]を用いて電子をユビキノンへ伝える逆のトンネル効果が主張されている。この経路ではヘムは電子を受容する補因子として作用する。これは反応中間体として酸素分子からできる活性酸素(ROS)との相互作用を防ぐ効果がある。ヘムはimage 4のようにユビキノンと関連している。

また、電子が[3Fe-4S]クラスターからヘムへ直接トンネリングするのを防ぐ開閉機構も提唱されている。電位の候補はHis207残基で、ヘムとクラスターの間に位置している。サブユニットBのHis207は[3Fe-4S]クラスターに近く、ユビキノンおよびヘムに結合しており、酸化還元中心として電子の流れを調節することが可能である[7]

プロトン移動:SQRでキノンを完全に還元するには2個の電子と2個のプロトンが必要である。水分子(HOH39)が活性部位に付き、それがサブユニットBのHis207、サブユニットCのArg31、そしてサブユニットDのAsp82に配位されると主張されている。セミキノンはHOH39から誘導されたプロトンによりプロトン化され、ユビキノールへの還元が完了する。おそらく、His207とAsp82がこの機構を容易にしていると考えられる。他の研究では、サブユニットDのTyr83が隣のヒスチジンとユビキノンのO1カルボニル酸素に配位していると提唱されている。これは、ヒスチジン残基はチロシンのpKaを減少させ、そのプロトンをユビキノン中間体に提供するというものである。

分類

複合体IIは膜結合サブユニットに注目して以下の5種類に分類されている[8]

タイプ サブユニット 結合様式 ヘムb 分布
A C+D 膜貫通 2 ほとんどの古細菌
B C 膜貫通 2 ほとんどの真正細菌
C C+D 膜貫通 1 真核生物プロテオバクテリア(α・β・γ)
D C+D 膜貫通 0 γプロテオバクテリアフマル酸レダクターゼ
E E+F 膜表在 0 スルフォロブス目古細菌

この他に、種子植物の複合体IIは7~8サブユニットで[9]トリパノソーマでは12サブユニットで構成されている[10]

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ Oyedotun KS, Lemire BD (March 2004). “The quaternary structure of the Saccharomyces cerevisiae succinate dehydrogenase. Homology modeling, cofactor docking, and molecular dynamics simulation studies”. J. Biol. Chem. 279 (10): 9424–31. doi:10.1074/jbc.M311876200. PMID 14672929. http://www.jbc.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=14672929. 
  2. ^ a b Tomitsuka E, Hirawake H, Goto Y, Taiwaki M, Harada S, Kita K (2003). “Direct evidence for two distinct forms of the flavoprotein subunit of human mitochondrial complex II (succinate-ubiquinone reductase)”. J. Biochem 134 (2): 191–5. doi:10.1093/jb/mvg144. 
  3. ^ a b Yankovskaya V, Horsefield R, Törnroth S, et al. (January 2003). “Architecture of succinate dehydrogenase and reactive oxygen species generation”. Science 299 (5607): 700–4. doi:10.1126/science.1079605. PMID 12560550. http://www.sciencemag.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=12560550. 
  4. ^ Kenney WC (April 1975). “The reaction of N-ethylmaleimide at the active site of succinate dehydrogenase”. J. Biol. Chem. 250 (8): 3089–94. PMID 235539. http://www.jbc.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=235539. 
  5. ^ Horsefield R, Yankovskaya V, Sexton G, et al. (March 2006). “Structural and computational analysis of the quinone-binding site of complex II (succinate-ubiquinone oxidoreductase): a mechanism of electron transfer and proton conduction during ubiquinone reduction”. J. Biol. Chem. 281 (11): 7309–16. doi:10.1074/jbc.M508173200. PMID 16407191. http://www.jbc.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=16407191. 
  6. ^ Pettersen EF, Goddard TD, Huang CC, et al. (October 2004). “UCSF Chimera--a visualization system for exploratory research and analysis”. J Comput Chem 25 (13): 1605–12. doi:10.1002/jcc.2008410.1002/jcc.20084. PMID 15264254. 
  7. ^ Tran QM, Rothery RA, Maklashina E, Cecchini G, Weiner JH (October 2006). “The quinone binding site in Escherichia coli succinate dehydrogenase is required for electron transfer to the heme b”. J. Biol. Chem. 281 (43): 32310–7. doi:10.1074/jbc.M607476200. PMID 16950775. http://www.jbc.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=16950775. 
  8. ^ Lemos et al. (2002). “Quinol:fumarate oxidoreductases and succinate:quinone oxidoreductases: phylogenetic relationships, metal centres and membrane attachment”. Biochim. Biophys. Acta 1553 (1–2): 158–170. doi:10.1016/S0005-2728(01)00239-0. 
  9. ^ Huang et al. (2010). “Functional and composition differences between mitochondrial complex II in Arabidopsis and rice are correlated with the complex genetic history of the enzyme”. Plant Mol. Biol. 72 (3): 331–342. doi:10.1007/s11103-009-9573-z. 
  10. ^ Morales et al. (2009). “Novel mitochondrial complex II isolated from Trypanosoma cruzi is composed of 12 peptides including a heterodimeric Ip subunit”. J. Biol. Chem. 284 (11): 7255–7263. doi:10.1074/jbc.M806623200. 

参考文献

  • Molecular graphics images were produced using the UCSF Chimera package from the Resource for Biocomputing, Visualization, and Informatics at the University of California, San Francisco (supported by NIH P41 RR-01081).

複合体II

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 07:41 UTC 版)

電子伝達系」の記事における「複合体II」の解説

詳細は「コハク酸デヒドロゲナーゼ」を参照 複合体IIはSDHA・SDHB・SDHC・SDHDの4つタンパク質サブユニットから構成されコハク酸由来する追加電子がキノンプールに入りFADを介してキノン移される脂肪酸グリセロール3-リン酸等の別の電子供与体も、キノン電子供給できる。複合体IIは複合体Iと平行な電子伝達経路であるが、複合体Iとは異なり、この経路では膜間空間にプロトン輸送されないこのため、複合体IIでは電子伝達系全体もたらすエネルギー少ない。 複合体II はコハク酸酸化およびフマル酸還元両方向の反応担い、以下の役割をになう。 好気条件コハク酸からキノンへの電子伝達を行う「コハク酸ユビキノン酸化還元酵素嫌気条件 — ロドキノールからフマル酸への電子伝達を行う「ロドキノール:フマル酸酸化還元酵素呼吸鎖複合体では唯一プロトン電気化学的ポテンシャル形成には関与しないが、嫌気条件反応共役して複合体 Iプロトンポンプ機構稼動させるシステムをになう。 複合体II は以下の構成からなる表在性サブユニット コハク酸フマル酸酸化還元関わるフラビンタンパク質 (FAD) 膜内サブユニット Fe-S タンパク質 シトクロム bユビキノン酸化還元関わる好気的電子伝達は以下の手順で行われるコハク酸鉄・硫黄クラスターユビキノン 収支式は コハク酸 + ユビキノンフマル酸 + ユビキノール 嫌気的電子伝達は以下の手順で行われる複合体I 由来のロドキノール → Fe-S クラスターフマル酸 収支式は フマル酸 + 2 プロトン + ロドキノール → コハク酸 + ロドキノン 複合体IIはフマル酸還元酵素起源とする。その後ユビキノン酸化能などを獲得していき、現在のになった考えられる

※この「複合体II」の解説は、「電子伝達系」の解説の一部です。
「複合体II」を含む「電子伝達系」の記事については、「電子伝達系」の概要を参照ください。

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