ホモダインとシンクロダイン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/27 06:10 UTC 版)
「ダイレクトコンバージョン受信機」の記事における「ホモダインとシンクロダイン」の解説
2つの高周波信号を混合し低周波の信号を直接得る、という受信方式のアイデアは非常に古くから知られている。カナダの発明家でラジオに関する先駆的実験を行ったことで知られているレジナルド・フェッセンデンは、送信側でわずかに周波数の異なった2つの電波を送信し、受信側ではそれらを混合して可聴音を生成する無線方式の特許を1901年にアメリカで出願した。真空管などは当時まだ発明されておらず、受信側での混合はコイルを巻きつけたコアの非線形性により行い、コアのすぐそばの振動板を直接駆動した。 1913年、後にスーパーヘテロダイン方式を発明するアメリカの有名な研究者エドウィン・アームストロングは再生検波回路の特許申請を行った。この回路は検波回路を発振直前の状態にして受信感度と選択度を向上させるものだったが、その原理上回路は簡単に受信周波数で発振し、受信信号との混合により低周波のビート音が発生した。 1915年、ウエスタンエレクトリックのケンドール(Burton W. Kendall)はアームストロングの再生検波回路をより洗練させるとともに、受信側の発振周波数をAM信号のキャリア周波数と正確に同じにすることで音声信号を復調する方式を考案し特許申請を行った。これは後にホモダイン(Homodyne)と呼ばれる方式である。特許には再生検波回路に高周波増幅段を付加した回路や低周波増幅段を付加した回路などと共に、現在のダイレクトコンバージョン受信機のように独立した局部発振器を設け受信信号と混合する回路も含まれている。 1924年にコールブルック(F. M. Colebrook)はケンドールの特許と同様の再生検波回路と復調方式を発表し、ホモダインという名称を与えた。この方式は受信側の発振周波数とキャリア周波数がずれているとビート音が発生するが、周波数が近づくにつれてビート音の周波数が低くなり、完全に周波数が一致すると音声のみが聞こえるようになる。当時の簡単な受信回路は不安定だったためチューニングが難しく、わずかな受信状態の変化や温度変化などで発振周波数がずれて不快なビート音が発生することも多かった。 コールブルックの発表の少し前、1922年にロビンソンは新しい受信方式についてイギリスで特許申請を行った。これは受信対象となるAM信号と受信信号に含まれているキャリア信号とを別々に増幅し、両者を混合することで音声信号を復号する方式だった。この方式だと発振周波数がずれてしまう問題はなくなる。しかし受信信号からキャリア信号のみを取り出すには非常に性能の良いフィルタが必要になる。広い周波数範囲でシャープな特性を持ち安定したフィルタを実現するのは技術的に難しく、当時の技術レベルでは現実的な方式とは言えなかったが、ダイレクトコンバージョン方式の一種であるシンクロダイン(Synchrodyne)と呼ばれる受信方式を開発する第一歩となった。シンクロダインとは受信信号のキャリア周波数と受信機の発振周波数とを同期させるような仕組みを持ったダイレクトコンバージョン受信機である。 1928年にはアメリカの研究者ハートレー(Ralph V. Hartley)が不要なイメージ信号やサイドバンド信号を抑制するミキサ回路を考案し特許を取得した。これは現在の多くのダイレクトコンバージョン受信機で使われている直交ミキサの考え方の元となるものである。 1936年にガブリロービチ(L. Gabrilovitch)はイギリスでシンクロダイン回路の特許申請を行った。これは受信信号のキャリア周波数と受信機の発振周波数とを同期させる回路をハートレーのミキサ回路に組み合わせたもので、受信したAM信号のいずれかのサイドバンドに混信があっても安定した受信ができた。また、1939年のカーティス(L. F. Curtis)による特許では、現在 PLL(Phase-Locked Loop)と呼ばれている方式でキャリア周波数と局部発振周波数とを同期させるダイレクトコンバージョン受信回路が記載されている。 1947年にイギリスの研究者であるタッカー(D. G. Tucker)はこれらと類似の受信回路を考案し、シンクロダインという名称を初めて使った。タッカーらが中心となりシンクロダインについての様々な研究が行われた。
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