ヒ素の発生源
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/13 16:33 UTC 版)
「イングランドビール中毒事件」の記事における「ヒ素の発生源」の解説
ビールの製造途中でヒ素が混入されたと考えられるいくつかの醸造所が特定されると、そのヒ素がどこから来たのかについての調査が開始された。その結果、リヴァプールのガーストン(英語版)のボストック (Bostock) 社から醸造所に供給された転化糖中にヒ素が存在することが判明した。 この時代、ボストック社を含む一部の醸造所は、利益率の低いイングランドのビール市場において経費を削減する目的で、高品質の大麦麦芽を、砂糖を混ぜた低品質の大麦麦芽に置き換えた。当時、純粋ビール運動 (Pure Beer movement) の一環として、醸造用代替品の使用に関する調査が1896年から1899年にかけて行われていたこともあり、砂糖との混合は一部で物議を醸したが、調査によって醸造用代替品はイギリスの1875年食品医薬品売買法に基づく「有害物質」ではないと結論付けられた。 この砂糖は、デンプンを酸の存在下で加熱してグルコースを生成する酸加水分解(英語版)によって製造されていた。この方法は少なくとも1814年以降商業的に利用されており、それほど新しいものではなかった。ボストック社はリーズのJohn Nicholson & Sons(ジョン・ニコルソン&サンズ)社から購入した硫酸を使用して酸加水分解を行ったが、この硫酸はヒ素を含む黄鉄鉱から生成されたものであり、生成された硫酸にもヒ素が残っていた。 ジョン・ニコルソン&サンズ社は、1888年以来ボストック社に硫酸を供給していた。当初の硫酸にはヒ素が混入していなかったが、1900年3月以降、ヒ素を含む未精製の硫酸の供給を始めた。これは、硫酸がヒ素中毒の原因であると判明した1900年11月まで続いた。ジョン・ニコルソン&サンズ社は、自分たちはボストック社によって硫酸がどのように使用されていたかを知らず、ボストック社から要求されればヒ素を含まない酸を供給できたはずである、と主張した。 ヒ素中毒の発生源が明らかになると、ビールのヒ素汚染に関するさらなる調査が行われた。最終的に、硫酸からだけではなく麦芽からもヒ素がビールに混入していたことが判明した。ビール製造中、浸漬した大麦の発芽を止める際には、コークスまたは石炭を燃料とし、高温の蒸気で大麦を乾燥させることによって大麦の湿度を減少させる。燃料中に混入したヒ素が蒸気を通じて大麦に付着し、それが完成した麦芽にも残っていることは十分にあり得る。 調査の結果、急増したアルコール性神経障害のほとんどの症例が実際はヒ素中毒であり、主に醸造時に使用されるヒ素を含む硫酸が原因であることが分かった。そして、急増以前の数千人のアルコール性神経障害も同様にヒ素中毒であり、原因も同じであることも判明した。
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