バーゼルIIと世界金融危機
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/29 19:33 UTC 版)
「バーゼルII」の記事における「バーゼルIIと世界金融危機」の解説
世界金融危機の前後、バーゼルIIの役割は広く議論されてきた。危機が本制度の弱点を示したと主張する者もいれば 、実際には危機の影響を増大させたとして批判する者もいる。金融危機を受けて、バーゼル銀行監督委員会は、いわゆるバーゼルIIIとして改訂された世界基準を公表した。同委員会は、この新基準が、資本の質の向上、資本市場業務のリスクカバー率の増加、流動性基準の改善など、様々な利益をもたらすと主張した。 BCBSの前会長であるナウト・ウェリンクは、2009年9月に、危機への対応として委員会が取るべき戦略的対応をまとめた論文を発表した。彼は、5つの主要な要素からなる、より強力な規制の枠組みを提案した。すなわち、(a)規制資本の質の向上、(b)流動性の管理・監督の強化、(c)第2の柱のガイドラインの強化を含むリスクの管理・監督の強化、(d)証券化、オフバランスシートのエクスポージャー、トレーディング活動に関する第3の柱の開示の強化による透明性の向上、(e)国境を越えた監督上の協力の5つである。危機を引き起こした主要な要因の1つが金融市場における流動性の枯渇であったことを踏まえ、 BCBSも、2008年9月に流動性の管理・監督を改善するための原則を発表した。 近年のOECDの研究によれば、バーゼル合意に基づく銀行規制は、型破りなビジネス慣行を助長し、金融危機の間に顕在化した有害なシステミック・ショックに寄与したか、あるいは助長したとすら考えられる。研究によると、リスク加重資産に基づく自己資本比率規制は、規制要件を回避するためのイノベーションを引き起こし、銀行の焦点を中核的な経済機能から離れたところにシフトさせる。バーゼルIIIで導入された、リスク加重資産に基づくさらに厳しい自己資本比率規制は、この偏ったインセンティブを一層高める可能性がある。新しい流動性規制は、状況を改善しようとしているものにもかかわらず、銀行が規制を悪用するインセンティブを高めるもうひとつの候補となりうる。 世界年金会議(WPC)などのシンクタンクも、欧州の立法機関が、2005年に採択され、2008年から有効となった自己資本要求指令(CRD)を通じて欧州連合の法律に置き換えられたバーゼルII勧告事項の採用を、独断的かつ甘い考えで推し進めたと主張している。 要するに、民間銀行、中央銀行、銀行規制当局は、民間の格付け会社による信用リスクの評価に頼ることを余儀なくされたのだ。それにより、規制当局の権限の一部が民間の格付け機関にとってかわられたのである。 バーゼルIIが導入されるずっと前から、ジョージ・W・ストロークとマーティン・H・ウィガーズは、少数の格付機関にシステム的に依存しているために、世界的な金融経済危機が起こると指摘していた。危機の勃発後、2007年にアラン・グリーンスパンもこの意見に同意した。少なくとも、2011年の金融危機調査報告書では、この見解が追認されている。
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