ハリケーンの通過
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/13 05:11 UTC 版)
「1989年アメリカ海洋大気庁P-3エンジン喪失事故」の記事における「ハリケーンの通過」の解説
短い休息の後、NOAA42はヒューゴの「目」を覆う分厚い雲の壁へ向かって飛んだ。時刻は既に夜となっており、乱気流が強まり、気圧も低下した。激しい雨の中を飛ぶNOAA42は左右数メートルにわたって激しく揺れる状態であった。この時点で風速は時速250キロにまで達し、気圧は960ミリバールであった。これはカテゴリ4のハリケーンと同等であった。ヒューゴ中心部への道程のうち、最初の3分の2はまだましであったが、残りの3分の1は「地獄がバラバラに壊れたようだった」と司令官は語った。乱気流は激しさを増し、高度1500メートルへの上昇はもはや不可能であった。機体の揺れはなお激しさを増し、機長は一人で操縦桿を握ることができず、副操縦士が機長の補助に入った。二人がかりでエンジンを最大出力にしたが、それでもヒューゴの乱気流に抗うことはできず、高度を維持しながらヒューゴの中心を目指すことで精一杯であった。1分後には風速は時速287キロまで達し、さらに強くなり続けていた。気圧は950ミリバールへ下がり、なお下がろうとしていた。これは、ハリケーン・ヒューゴが最悪のカテゴリ5に相当する可能性を意味していた。 17時27分34秒、014°のコースを飛行中にフライトレコーダーが時速324キロという最大風速の横風を記録した。その5秒後、高度405メートルで27°のコースを飛ぶNOAA42は、時速35キロに達する下降気流に直面、17時27分56秒にはそれが時速38キロの上昇気流へと変化した。この時フライトレーダーは風速363キロと気圧930ミリバールを記録し、ハリケーン・ヒューゴは、カテゴリー5となった。NOAA42がカテゴリ5のハリケーンに遭遇するのは初めてであったが、堅牢な構造がNOAA42の空中分解を防いだ。 17時28分に当機が機首を13°まで下げると時速535キロに達し、14秒後には高度277メートルまで降下した。周囲は次第に明るくなり、ヒューゴの目に近づいていることを示していた。しかし、その後視界は急激に暗くなり、設計加速度負荷の3倍に相当する衝撃がNOAA42を襲った。飛行機は激しく横揺れし、設置された機器は床に放り出された。その時、操縦室のクルーは、右内部の3番エンジンで火災が起きたことを計器から知った。窓からは長さ9メートルの光がエンジンから伸びるのが見え、エンジン内の温度は1260℃に達していた。 17時28分30秒、エンジンが停止。NOAA42は制御不能に陥っていた。 17時29分ごろ、右に大きく傾き高度270メートルまで降下したところで、乱気流は突然終わった。 NOAA42はついにハリケーンヒューゴの「目」に到着したのである。
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