トレメインの時代
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「アスタウンディング」の記事における「トレメインの時代」の解説
ストリート&スミスがアスタウンディングを買い取ったとき、クレイトンのもう1つのパルプ・マガジン Strange Tales も再立ち上げする計画で、そのための原稿の買い入れも行っていた。Strange Tales は中止となったため、それらの作品はアスタウンディング1933年10月号に掲載された。この号と次の号では平凡な出来だったが、12月号でトレメインは「異なった発想」(thought variant) を編集方針として表明し、使い古された冒険ものよりも独創性と自由な発想を重視するとした。この方針はトレメインと副編集長デズモンド・ホールが話し合い、既存のSF雑誌やSF的アイデアをよく使っていた The Shadow のようなヒーローものパルプ・マガジンとは一線を画したアイデンティティをアスタウンディングに与える試みとして採用したものである。 初期の「異なった発想」の作品はそれほど独創的ではなかった。アシュリーは Nat Schachner の短編 "Ancestral Voices" については「Schachner のベストではない」と評し、ドナルド・ワンドレイ(英語版)の「巨像」については「アイデアは新しくないがエネルギッシュな筆致だ」と評している。その後トレメインは、他の編集部には拒絶されると思われる作品を快く掲載していく姿勢を明確化させていった。また小説のための新しいアイデアを刺激する試みとして、チャールズ・フォートの超常現象を扱ったノンフィクション『見よ!』(Lo!) を1934年4月号から11月号まで8回にわたって連載した。1934年は小説の面でも当たり年となった。4月号から連載開始したジャック・ウィリアムスンの『宇宙軍団』はスペースオペラの古典とされている。マレイ・ラインスターの「時の脇道」は歴史改変SFの古典とされている。C・L・ムーアの "The Bright Illusion"、ジョン・W・キャンベルの「薄暮」(ドン・A・スチュアート名義)なども傑作に数えられる。「薄暮」はキャンベルのそれまでのスペースオペラよりも文学的かつ詩的で、トレメインは他の作家にそのような作品を書くよう勧めた。例えば、1934年12月号に掲載されたレイモンド・Z・ガランの「火星人774号」(原題は "Old Faithful")はそのような作品の1つだが、大いに人気となり続編 "Son of Old Faithful" を1935年7月号に掲載することになった。 アスタウンディングの読者は、他の類似の雑誌よりも博識で年齢層が高く、表紙イラストにもそれが反映されている。同時期のワンダー・ストーリーズやアメージング・ストーリーズに比べると地味なイラストになっている。 1935年末までに、アスタウンディング誌はSF雑誌界のリーダーに躍り出た。トレメインはジャンルの境界にあまりこだわらずに掲載作品を決めており、H・P・ラヴクラフトの『狂気の山脈にて』を1936年に連載することにもつながった。さらに1936年6月号にはラヴクラフトの「超時間の影」を掲載したが、SF純粋主義者からの抗議もあった。しかし、トレメインはあまりにも多忙だったため、当初設定した高い水準を維持できたのは、最初の2、3年だった。ジャック・ウイリアムスン、マレイ・ラインスター、レイモンド・Z・ガラン、フランク・ベルナップ・ロングといった常連作家の寄稿は信頼できたが、トレメインが原稿を読むのがあまりに遅いため、新しい作家は落胆することが多かった。トレメイン時代の後半に登場した新人作家としては、ロス・ロクリン(英語版)、ネルスン・ボンド、L・スプレイグ・ディ・キャンプがいる。ディ・キャンプのデビュー作は1937年9月号の "The Isolinguals" である。
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