ソーラー電力セイル計画
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/05 08:22 UTC 版)
「IKAROS」の記事における「ソーラー電力セイル計画」の解説
JAXAの前身の組織の1つである宇宙科学研究所において、ソーラーセイルワーキンググループが2000年に発足した。このワーキンググループは、将来の惑星間航行のための動力源として有力視されながら、実現していなかったソーラーセイルを用いた推進方法を研究するグループであった。具体的には、ソーラーセイルの実用化に必要な大型膜構造の製造・展開技術の研究や、ソーラーセイル推進を使用した科学ミッションの成立性や科学的意義、運用要求などの検討を目的としていた。 ただ有力視されてきたとは言え、ソーラーセイルで受けられる力は、ごく弱い。さらに、ソーラーセイルが受ける力の源は事実上、太陽光に依存する。その太陽光は、太陽から離れると弱くなる。それでも、その分だけソーラーセイルの面積を大きくして、なるべく軽量にすれば理論的には可能と判っていた。 しかし、検討が進むにつれて、推進装置がソーラーセイル単体では、受けられる力が弱過ぎるために、現実的な期間内でのミッション遂行は困難だと結論付けられた。そこで、ソーラーセイルの表面に、薄膜太陽電池を貼り付けて、この薄膜太陽電池によって発生した電力でイオンエンジンを動かし、これらを併用するハイブリッド推進方式であるソーラー電力セイルが考案された。こうして、2002年にソーラー電力セイルワーキンググループが発足し、今回の「イカロス」に使用したソーラー電力セイルが研究されていった。 2003年3月には木星の公転軌道近傍での赤外線天体観測やトロヤ群小惑星の接近観測、航行中のガンマ線バーストと宇宙塵の連続観測を目的としたミッション案が、宇宙工学委員会に提出されたものの、採択されなかった。ソーラーセイルを利用した惑星間航行は、木星の公転軌道よりの外側でも可能かもしれないが、ソーラー電力セイルの太陽電池の側に問題が発生する。太陽電池が利用している光電効果を発生させるためには、充分な強さの光が必要だが、木星軌道付近まで来ると太陽光が微弱になる為に、従来の太陽電池では発電が難しい。よって、原子力電池を搭載して電源にする方法が一般的である。原子力電池は放射性物質が放出する放射線のエネルギーを、電力へと変換する装置であり、例えばプルトニウムやストロンチウム90などの放射性物質をロケットに乗せる必要が出てくる。もしロケットの打ち上げに失敗した場合には、放射性物質がバラまかれるリスクを有するなどの理由で、原子力電池の使用は見送られた。木星圏探査計画は2006年にも宇宙開発委員会に提出されたものの、ASTRO-Gが採択されたため、開発段階へは移行しなかった。 これらの検討は、MUSES-C(後のはやぶさ)に続く次期工学実験衛星(MUSES-D)への採用を目指して行われた物であり、ソーラー電力セイルに関連する可能性が考えられる他の案としては、例えば、黄道面脱出による赤外線天体観測機、枯渇彗星核や小惑星への着陸探査機なども候補だった。
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