システミック・リスク
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/13 01:52 UTC 版)
「ヘッジファンド」の記事における「システミック・リスク」の解説
システミック・リスクとは、(1会社だけの不安定と対比して)金融システム全体が不安定になるリスクのことである。システム全体を不安定にする大事件のほか、金融機関1社が不安定になるとき、その危機が当該会社と取引している他の金融機関に波及する可能性もシステミック・リスクを引き起こす。全米経済研究所や欧州中央銀行などはヘッジファンドが金融業界のシステミック・リスクを増大させていることを指摘し、特にロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が1998年に破綻した後はヘッジファンドの破綻がその取引相手の破綻を招くというシステミック・リスクに注目が集まった。(アメリカの連邦準備制度はLTCMを救済しなかったため、アメリカの納税者が直接費用を負担することはなかったが、代わりに銀行14社がLTCMの救済にあたった。 しかし、金融業界においてこの指摘に反対する声も多い。反対側の主張はヘッジファンドの大半は運用資産が少なく、レバレッジも低いため、いわゆる大きすぎて潰せない(Too big to fail)にはならず、ヘッジファンドが1つ潰れても経済システムにさほど影響しない、というものである。2008年の金融危機以前とその最中におけるヘッジファンドのレバレッジ使用の研究によると、ヘッジファンドのレバレッジは低く、投資銀行などと比べてレバレッジの使用が反循環的である。例えば、2008年の金融危機以前、ヘッジファンドにおけるレバレッジが下がった一方、それ以外の金融機関では上がる一方であった。ヘッジファンドの破綻は通常でも起こりうることであり、金融危機の最中には数多くのヘッジファンドが破綻した。2009年、連邦準備制度理事会議長ベン・バーナンキはアメリカ合衆国下院財政委員会(英語版)への証言で「どんなヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドでも1社がシステム上重大な会社になるとは考えない」と述べた。 いずれにせよ、ヘッジファンドはリスク対リターンの比率をできるだけ下げる努力をしているが、何らかのリスクは必ず残る。群集心理による行動があった場合、金融危機におけるシステミック・リスクが大きくなる。例えば、多くのヘッジファンドが似たような取引をしている場合、このような取引が損失を出しているときは大勢のヘッジファンドが同じように損失を出す。さらに、ヘッジファンドの大半はレバレッジがそれほど高くないが、銀行やミューチュアル・ファンドと違ってレバレッジ使用の規制がないため、極めて高いレバレッジを投資戦略に組み込むヘッジファンドも存在する。金融危機のとき、極めて高いレバレッジがヘッジファンドを清算に追い込む可能性があり、特に流動性に乏しい資産に投資しているヘッジファンドは清算の危険性がより大きい。ヘッジファンドと投資銀行などプライム・ブローカー業務を提供する会社の間の緊密な関係は金融危機におけるドミノ現象を引き起こす可能性もあり、取引相手の銀行が潰れるとヘッジファンドが凍結してしまう可能性もある。ヘッジファンドが金融市場において大きな役割を果たしていることがこれらシステミック・リスクに対する懸念を増大させている。2008年時点ではヘッジファンドの運用資産(英語版)総計が2兆米ドル近くになっていたが、これはレバレッジ効果により増大させた市場リスクを算入していない値であり、実際のリスクはさらに大きいものになっている。 金融サービス機構(英語版)が2012年8月に行った調査によると、リスクは限定的で、取引相手による保証金の要求が上がったためリスク自体が低下した。しかし、市場のストレス時に投資者が資金を引き出すと、ヘッジファンドが資産を売却することを余儀なくされる可能性があり、特にレバレッジの大きいヘッジファンド会社でおこった場合や同様のことが数社同時におこった場合、流動性と価格決定の問題を引き起こす可能性があるという。
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