クリープ理論の発展
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/19 08:34 UTC 版)
粘着力を予測するために粘着現象の理論の発展が行われてきた。鉄道分野におけるクリープ理論は、イギリス人の機関車技術者であったフレデリック・ウィリアム・カーターによるものが始まりとされる。以下、クリープ理論の発達の歴史を主な研究と共に記す。 1874年に、オズボーン・レイノルズにより、ベルトやストラップによる動力伝達の研究の中でクリープの考え方が初めて説明された。レイノルズはクリープは鉄道車輪にも同じく適用できると述べている。その後1916年、カーターにより、鉄道車輪におけるクリープの基本コンセプトが導入され、粘着力がクリープに比例するという仮定が発表された。さらに1926年、カーターにより、ラヴ(英語版)のヘルツ接触に基づく接触弾性理論を用いて、機関車の粘着力について解析を行った論文が発表された。この研究の中で、摩擦を伴う転がり接触による2次元理論(前後、鉛直方向)による鉄道のクリープ問題への考察が行われ、クリープ力を接触面の凝着領域とすべり領域で分けて計算する考え方が初めて考案された。 カーターの研究の後、この理論を基により現実的な複雑な問題へ理論を拡張する試みが続けられた。1958年、ケネス・L・ジョンソン(英語版)により、カーターの2次元理論が3次元理論(前後、左右、鉛直方向)へ拡張された。この理論では問題を球と平面の接触と近似し、スピンによるクリープは考慮していない。しかし、同じ1958年、ジョンソンにより、スピンの影響が初めて研究された。これによるとスピンによる左右方向の接線力が無視できない場合があることが示唆された。その後1963年、HainesとOllertonにより、接触面を楕円と考え、前後方向に細長い一片(Strip)ずつに分割してカーターのクリープ則を適用する方法が考案された。このような近似計算方法をStrip Theoryと呼ぶ。また1964年、Vermeulenとジョンソンにより、1958年の彼らの研究と同様な仮定に基づき、接触楕円の半軸値に基づき粘着力を計算できるような3次元理論が発展された。 種々の理論の拡張の後、オランダ人の機械工学者であったヨースト・ジャック・カルカー(英語版)により集大成化される。1967年、カルカーにより、Hainesの理論を基にして、ポアソン比も考慮にいれた3次元理論が発表された。また、この研究の中で、すべり領域の影響が無視できるほどクリープが小さい範囲で線形近似した理論についても考案されており、非線形理論と区別してカルカーの線形理論などと呼ばれる。クリープが大きくなく線形性が成り立つ範囲においては、このカルカーの線形理論が車両運動解析でも使用されている。1967年以後も、粘着力がクリープに単純比例しない領域までを考慮する非線形理論の発展がなされてきた。非線形理論数を使用した場合の計算時間を短縮するために、ヘルツ接触を仮定した近似・単純化が理論に加えられ、特にカルカーにより考案されたものはカルカーの単純化理論またはカルカーの単純化非線形理論などと呼ばれる。この非線形理論とその計算アルゴリズムとしてはFASTSIM、その改訂版のROLLENなどがよく知られている。また、非ヘルツ接触まで扱う厳密理論とその計算アルゴリズムとしては、KalkerのCONTACTなどがよく知られている。
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