クリーゼ(重症)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/12 02:42 UTC 版)
症状が呼吸筋に及び呼吸不全をおこし生命を脅かすものである。重症筋無力症の15〜20%では経過のどこかでクリーゼを経験していく。 経過 以下の臨床経過を経ていく 口周囲・咽頭筋、頸部の筋肉の麻痺による気道の虚脱 声帯外転筋の麻痺による喘鳴の発生 頻回の咳嗽に伴った横隔膜の疲労による気道分泌の除去不全 横隔膜、肋間筋、腹筋の脱力により有効な維持不能 歴史的にクリーゼは筋無力症性クリーゼとコリン作動性クリーゼに分類されている。筋無力症性クリーゼはMG本来の機序によって神経筋接合部のブロックが呼吸筋に起こることである。あくまで呼吸筋の症状によって作られた概念であり、四肢の筋力は保たれていることもある。相対的なコリン作動性の機序で自律神経症状も伴う。病態としては抗コリンエステラーゼ阻害薬が効果的である。筋無力症性クリーゼでは瞳孔は散大し、縮瞳は認められない。コリン作動性クリーゼはコリンエステラーゼ阻害薬の過剰投与によって起こる。かつてはコリンエステラーゼ阻害薬が大量に使用されていた。ムスカリン様症状(縮瞳、発汗、気道内分泌増加、悪心、嘔吐、疝痛、下痢、徐脈)とニコチン様作用(呼吸不全、クランプ)んどが知られている。テンシロンテストにより筋無力症性クリーゼとコリン作動性クリーゼの鑑別がある程度可能になったが鑑別は容易ではない。一般的に見られるクリーゼは筋無力症性クリーゼとコリン作動性クリーゼの混合したタイプであることが多い。 誘因 発症から最初の2〜3年が症状が重く不安定である。この期間にクリーゼが起こりやすい。また胸腺腫を合併している場合はMGの症状が不安定に推移しクリーゼにいたりやすい。また抗Musk抗体陽性のMGでは球症状(構音障害や嚥下障害)や呼吸筋麻痺といったクリーゼが急速に進行することがあり注意が必要である。 感染症:細菌性肺炎やウイルス性上気道炎などはクリーゼの誘因となる。 外科手術:胸腺摘除術など外科手術(侵襲)はクリーゼの誘因となる。 誤嚥 薬剤関連性:抗菌薬(アミノグリコシド系)、抗不整脈薬(キニジン、プロカインアミド)、降圧薬(βブロッカー、Ca拮抗薬)、マグネシウムなどが誘因となる。 発熱 妊娠・月経 治療・対処 呼吸障害の評価と管理、誘因の除去、免疫調節療法の開始、合併症の予防が治療の基本となる。呼吸状態が生命に危険を及ぼす程劣悪である場合、直ちに気管挿管する。重症筋無力症診療ガイドライン2014では抗コリンエステラーゼ阻害薬は中止することが推奨される。もし使用する場合はテンシロンテストで筋無力性クリーゼとコリン作動性クリーゼの判別を行う。症状が改善した場合、筋無力性クリーゼと判断し、臭化ピリドスチグミン製剤等のコリンエステラーゼ阻害剤を投与する(副作用のムスカリン作用に対しては硫酸アトロピン製剤を用いる)。症状が悪化した場合、コリン作動性クリーゼと判断し、コリンエステラーゼ阻害剤投与を中止して硫酸アトロピン製剤を投与する。なお、コリンエステラーゼ阻害剤により症状をコントロールしている場合、テンシロンテストを行うよりもコリンエステラーゼ阻害剤の投与を中断しての反応を見て判断するのが望ましい。挿管している場合は抜管の数日前にテンシロンテストを行いながら抗コリンエステラーゼ阻害薬は再投与する。免疫調節療法としては血漿交換や免疫グロブリン療法が検討されるが、治療効果の発現が速やかであることから血漿交換が選択されることが多い。
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