ガンダイオード発振器
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/22 05:54 UTC 版)
ガンダイオード発振器の回路図。 交流等価回路。 ガンダイオード発振器の負荷線。 DCL: Q点を決める直流負荷線。 SSL: 起動時に振幅がまだ小さい間の負荷線。 r < R {\displaystyle r<R} であるため極は右半平面にあり、振動の振幅は増加する。 LSL: 大信号での負荷線。交流電流の振幅が負性抵抗領域の端に近づくにつれて(緑)、正弦波のピークが歪み(クリッピング(英語版))、 r {\displaystyle r} は減少していって R {\displaystyle R} と等しくなったところで安定する。 一般的なガンダイオード発振器(右上回路図参照)は 負性抵抗発振器の機能を示す好例である。ダイオード D は電圧制御型(N型)の負性抵抗を持っており、電圧源 V b {\displaystyle V_{\text{b}}} のバイアスによって負性抵抗領域で動作している。微分抵抗は d v / d i = − r {\displaystyle dv/di\;=\;-r} である。チョークコイル RFC は交流電流がバイアス電源へ流れ込むのを防ぐ。 R {\displaystyle R} は直列同調回路 L C {\displaystyle LC} で起きる損失の等価抵抗に任意の負荷抵抗を加算したものである。この交流回路にキルヒホッフの電圧則を適用すると、交流電流 i ( t ) {\displaystyle i(t)} に関する以下の微分方程式が作れる。 d 2 i d t 2 + R − r L d i d t + 1 L C i = 0 {\displaystyle {\frac {d^{2}i}{dt^{2}}}+{\frac {R-r}{L}}{\frac {di}{dt}}+{\frac {1}{LC}}i=0} これを解いて以下の形の解を得る。 i ( t ) = i 0 e α t cos ( ω t + ϕ ) {\displaystyle i(t)=i_{0}e^{\alpha t}\cos(\omega t+\phi )} ここで α = r − R 2 L , ω = 1 L C − ( r − R 2 L ) 2 {\displaystyle \alpha ={\frac {r-R}{2L}},\quad \omega ={\sqrt {{\frac {1}{LC}}-\left({\frac {r-R}{2L}}\right)^{2}}}} である。 上式は回路を流れる電流 i ( t ) {\displaystyle i(t)} が直流バイアス点 I bias {\displaystyle I_{\text{bias}}} の周りで時間変化することを示している。ゼロではない初期電流 i ( 0 ) = i 0 {\displaystyle i(0)=i_{0}} から開始すると電流はおおよそ同調回路の共振周波数 ω で正弦的に振動し、振幅は α {\displaystyle \alpha } 次第で一定となるか、または指数関数的に増加もしくは減少する。回路が一定の発振を維持できるかどうかは正抵抗 R {\displaystyle R} と負抵抗 r {\displaystyle r} のバランスによって決まる。 r < R ⇒ α < 0 {\displaystyle r<R\Rightarrow \alpha <0} :(極は左半平面)ダイオードの負性抵抗が同調回路の正抵抗よりも小さければ正の減衰が起きる。回路内で起きるあらゆる振動は抵抗器 R {\displaystyle R} の発熱でエネルギーを奪われ、単なる同調回路の場合と同じように指数関数的に弱まって消える。すなわち回路は発振しない。 r = R ⇒ α = 0 {\displaystyle r=R\Rightarrow \alpha =0} :(極は虚軸上)正負の抵抗が等しい場合、正味の抵抗がゼロなので減衰はない。同調回路と負荷での損失をちょうど補償するだけのエネルギーをダイオードが供給するため、回路でいったん発振が始まると一定の振幅で継続する。発振器が定常的に動作している状態にあたる。 r > R ⇒ α > 0 {\displaystyle r>R\Rightarrow \alpha >0} :(極は右半平面)負性抵抗が正抵抗より大きい場合、減衰が負となるため、振動のエネルギーと振幅は指数関数的に増加する。発振器が起動している最中の状態である。 実用的な発振器は、発振を始めさせるため正味の抵抗を負として上記の領域 (3) で設計されている。経験則として R = r / 3 {\displaystyle R=r/3} とされることが多い。電源がオンになると、回路中の電気的ノイズが発振開始に必要な信号 i 0 {\displaystyle i_{0}} を供給し、指数関数的に振動が成長していく。ただし無限に成長することはなく、振幅はやがてダイオードの非線形性によって制限される。 信号振幅が大きいと回路が非線形になるため、上述の線形解析は厳密には成り立たず、微分抵抗は不確定になる。しかし、1周期にわたる「平均」抵抗が r {\displaystyle r} だと考えれば理解は可能である。正弦波の振幅が負性抵抗領域の幅を超え、I–V 曲線の微分抵抗が正となる領域にまで電圧変動がはみ出すと、平均の負性微分抵抗 r {\displaystyle r} が小さくなって全抵抗 R − r {\displaystyle R-r} と減衰定数 α {\displaystyle \alpha } が負からゼロに近づき、最終的に正に転じる。したがって振動は減衰がゼロになる r = R {\displaystyle r=R} で安定する。 ガンダイオードの負性抵抗は −5〜−25 Ωの範囲である。 R {\displaystyle R} が r {\displaystyle r} に近く、発振開始に最低限必要な程度である場合、電圧振幅は I–V 曲線の線形部分を大きく超えず、出力波形はほぼ正弦波となって周波数も非常に安定する。 R {\displaystyle R} が r {\displaystyle r} よりはるかに小さい回路では I–V 曲線の非線形部分にまで振動が広がるため出力正弦波のクリッピング歪みが問題になり、周波数は電源電圧にますます依存するようになる。
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