エジプト語の言語構造
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 08:12 UTC 版)
エジプト語の構造はアフロ・アジア語族に典型的な特徴を有している。すなわち、アラビア語やヘブライ語など、他のアフロ・アジア語族の言語と同様、語彙の大半は語根と呼ばれる子音の組み合わせにより成り立っている。語根は大抵3つの子音から成り、例えば ⟨nfr⟩ という語根は「良い」、「美しい」などの意味を持つ。語根には、⟨rʕ⟩「太陽」(/ʕ/ は有声咽頭摩擦音)のように2つの子音から成る語根もあるが、まれに ⟨sḫdḫd⟩ 「逆さまになる」のように、5つも子音が組み合わされているものも存在する。これらの語根に、母音や接辞などの他の子音が組み合わされることにより、語根の意味に関係する様々な語が形成されるのである。しかし、他のアフロ・アジア語族の言語同様、エジプト語においても母音は文字で表記されなかったため、今日、エジプト語の個々の単語の発音を正確に知ることはできない。例えば、"ankh" という語は、どの母音が組み合わされたかによって「生命」、「生活する」、「生きている」など、さまざまな単語になりうるのである。また、エジプト語のローマ字転写に見られる、⟨a⟩, ⟨i⟩, そして ⟨u⟩ も、本来は全て子音を表している。例えば有名なツタンカーメン(トゥトアンクアメン)王のエジプト語の表記は、twt-ʕnḫ-ỉmn である。学者たちはこれらの子音に仮の音価を割り当て(一部の子音には仮の音価として母音を割り当て)、便宜的な発音を定めたのである。もちろん、このようなエジプト語の人工的な発音方式は、エジプト人が当時発音していた実際の音価とは異なるものであり、実際の音価についてはさまざまな議論が行われている。 エジプト語で区別されている子音は、両唇音、唇歯音、歯茎音、硬口蓋音、軟口蓋音、口蓋垂音、咽頭音、そして声門音であり、アラビア語に類似している。 中エジプト語の基本的な語順はVSO型である。「男が戸を開ける」という文は、エジプト語では wn s ˁȝ となり、前から順番に逐語訳すると「開ける・男・戸」となる。 エジプト語の単語の形態的な特徴としては、セム語派の言語に見られるような名詞の連語形という語形変化が挙げられる。後の名詞が前にある名詞の属格として置かれた際、前の名詞の母音や語尾が特別な形になるという語形変化で、現代の言語ではアラビア語のイダーファやヘブライ語のスミフートがこれにあたる。初期のエジプト語には冠詞がなかったが、新エジプト語の時代に pȝ, tȝ, nȝ のような冠詞が出現した。また、他のアフロ・アジア語族の言語同様、名詞には男性と女性の文法上の性と、単数、双数、複数の3つの文法上の数がある。
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