イシゴニス方式と等速ジョイント
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 03:46 UTC 版)
「前輪駆動」の記事における「イシゴニス方式と等速ジョイント」の解説
世界の大衆車に前輪駆動が広く普及するきっかけを創ったのは、1959年に発表されたイギリス・BMCのミニとされる。それまで前輪駆動は縦置きエンジン配置が主流であったが、ミニは横置きエンジン配置とし、その下にトランスアクスルを置いて二層に配置する方式を採用した。この横置きエンジンによる二層構造は、開発者アレック・イシゴニスの名を採ってイシゴニス方式と呼ばれる。 ミニがこのような配置を採ったのは、前後長がそれほど短くない既存の直列4気筒エンジンをコンパクトなエンジンルームに納めねばならない制約があったからである。それ以前にも直列2気筒エンジンの前輪駆動車に横置きエンジン配置の先例はあったが、直列4気筒エンジンを横置き配置するという着想は、プロペラシャフトのあるFR車では容易に採用し得ない手法であり、前輪駆動方式に著しいスペース節減効果の可能性があることを実証した。 ミニのブレイクスルーの背景には、等速ジョイントの改良も大きく寄与している。フォード・モーターの技術者であるアルフレート・ハンス・ツェッパ(英語版)が1938年に考案し、その後イギリスのバーフィールド社によって開発され、ミニで採用された「バーフィールド・ツェッパ・ジョイント」は、完全な実用性を備える量産型のボール式等速ジョイントであり、操舵時の大きな屈曲角でも円滑に駆動力を伝えることができ、長年にわたる前輪駆動車の課題を克服するものとなった。 ミニのバーフィールド・ツェッパ・ジョイントは条件の厳しい車輪側で採用されたものであり、車体側(差動装置側)には従来のカルダン・ジョイントや、不等速型ながら車体側に使用する場合は一応の実用水準を持った三叉型の「トリポッド・ジョイント」が用いられていた。それらを性能面で上回り、差動装置側での使用に適した柔軟性を持つボール式等速ジョイントは、バーフィールドの原案に基づいて日本の東洋ベアリング(現NTN)が「ダブルオフセット・ジョイント」(DOJ) として実用化した。これは1966年のスバル・1000向けで初めて採用されている。 これらのボール式等速ジョイントの改良はさらなる前輪駆動車の普及に貢献し、1960年代の欧州車を皮切りに、急速に世界の自動車メーカーが多くの小型車を前輪駆動化した。
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