アディ・ギルとは? わかりやすく解説

アースレース

(アディ・ギル から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/31 01:37 UTC 版)


「アースレース」正面
船歴
船籍国 ニュージーランド
船籍港 オークランド
所有 ピーター・ベスーン
起工 2005年1月
進水 2006年2月22日
その後 2010年1月8日(破棄処分)
主要諸元
総トン数 13トン
全長 24.0m
全幅 7.0m
喫水 1.2m
機関 ディーゼル推進、2軸推進
カミンズ・マークルーザー製機関 × 2基(350kW × 2)
速力 45ノット
航続距離 10,000Lで3,000海里
定員
その他
カナダ・バンクーバーの港に停泊するアースレース

アースレース英語Earthrace)は、バイオディーゼル燃料を使用する三胴船型の高速船モーターボートによる世界一周最速航海記録を更新する計画のために建造された[1][2]。後にシーシェパードの抗議活動に参加することになりアディ・ギルAdy Gil)と改名され、日本の捕鯨に対する抗議活動に使用されるが、2010年に日本の捕鯨船に突撃、大破し海上に投棄した。そのせいで油が流出し海洋汚染となった。シーシェパードは沈没と虚偽の発表をした[3]

設計

「アースレース」は、クレイグ・ルーミス設計グループによって設計され、キャリバー・ボートで建造され、2005年1月に起工、2006年2月22日に進水した。

船体は、造波抵抗を最小限にするため三胴船型ウェーブ・ピアーサー方式を採用した。これにより安定性と高速性が得られ、外殻は複合カーボン繊維ケブラーで構成[4]される。推進機関にはバイオディーゼルもしくはディーゼル混合燃料で稼動出来る形式を採用したという。低公害動物性油脂と植物性油脂を使用できるとされ、2005年にパフォーマンスとして操舵手は脂肪吸引を受けて100グラムを燃料に変換した。建造費用は約250万ドルかかり、その大部分はスポンサーが供給した。

記録への挑戦

「アースレース」は低公害技術を展示航海する事を目的としていた。

2007年

2007年3月10日バルバドスを出港したがプロペラなどの機械的問題が発生し、行程は大幅に遅延した。同年3月19日夜にはグアテマラ沖合約22キロ付近にて地元の漁船と衝突し乗組員は負傷者は出なかったが、漁船側には3名のうち1名の死者が出た[5]。乗組員はレース終了後に10日間の調査を受けて免除された。

記録を破るには2007年4月7日サンディエゴを出発し同年6月21日までに帰国する必要があった。しかし、レース中の5月31日スペインマラガにてレース継続を断念した。

2008年

サグントに所在する造船所にて修理を受けた後、二度目の挑戦を試みる。出発日時は中央ヨーロッパ標準時2008年4月27日14時35分であった。

4月30日に右舷エンジンのリフトポンプが故障、出発2日目には自動操縦の問題も起きた。これにより時間が失なわれたが記録更新のためにも計画を前倒ししてアゾレス諸島に到着する。その後、問題を解決しパナマ運河を通過して1月22日ハワイに到達。

34日目にパラオに到着、48日目に温度と湿度の問題で乗組員に身体的な不具合が発生した。56日目、スエズ港に到達しリフトポンプの問題のため16ノットの制限速度を開始。そして2008年6月27日にサグントに到着し中央ヨーロッパ標準時1424時にフィニッシュラインを通過し、世界記録を更新した。

アディ・ギル

2009年暮れ、タスマニア島ホバートに修理のため停泊する、黒く塗りなおされた「アディ・ギル」
後部

「アースレース」は日本の調査捕鯨活動に対する抗議を実行しているシーシェパードに対して2009年から2010年にかけて予定された抗議活動(ワルチング・マチルダ作戦)に同行するとした。

2009年10月17日に支援に合意し、船名が抗議活動のスポンサーの名をとって「アディ・ギル」に改名されたと同時に船体も黒に塗りなおされた。

2010年1月6日南極海にて日本の調査捕鯨船「第2昭南丸」に突撃し、乗組員6名は他の抗議船に救助された[6]。衝突をめぐり、シーシェパードと日本鯨類研究所の双方が衝突の瞬間のビデオを公開[7]し、互いの操船を非難している。また、シー・シェパード側は、真っ二つになったと発表したが、実際には即時沈没は免れた[8]

アディ・ギルはフランスの南極観測基地デュモン・デュルヴィル基地へ向けて、別の抗議船ボブ・バーカー号に曳航されていたが、現地時間1月8日早朝に放棄された[9][10]。気象条件は船の引き上げに支障がないと当初は報じられていたが、曳航の過程で浸水がよりひどくなっていた。衝突後の船体からの燃料漏れが目撃されていたことから、日本鯨類研究所はアディ・ギルの海上での放棄を、燃料による海洋汚染が懸念されると批判していた[9][11]

シーシェパードは当初アディ・ギルは沈没したと主張し、沈没したことによって更なる抗議行動が中断することはありえないとしていた[12][13]。アディ・ギル喪失の損失は150万ドルにのぼると見積もられるが[14]、支援者は「アディ・ギル2」建造のために100万ドルの寄付を申し出ているとされる[15]

なお、2010年10月7日、衝突事件時のアディ・ギル船長であったピーター・ベスーンがラジオ・ニュージーランドに出演しインタビューに答えたが、その中でベスーンは、アディ・ギルの沈没について、アディ・ギルは曳航可能な状態であったが、シー・シェパード代表のポール・ワトソンの指示により、テレビ映えする刺激的な映像を撮り世間の同情を買うことを目的に、シー・シェパードがアディ・ギルを自ら沈没させ南氷洋に放棄した、偽善的な自作自演の行為であったことを暴露している[16][17]

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ CNET Japanバイオディーゼル船の「Earthrace」、サンフランシスコで公開に2006年8月21日
  2. ^ Popular MechanicsEarthrace!2007年6月
  3. ^ APFシー・シェパードの「未来型抗議船」、日本船と衝突し沈没2010年1月6日
  4. ^ 破損時の映像からは、繊維質の素材であることは確認できるが詳細は不明
  5. ^ NzheraldEarthrace chief in court over tragedy2007年3月20日
  6. ^ 時事ドットコムシーシェパード船が日本船と衝突=乗組員は全員救助-南極海2010年1月6日
  7. ^ 2010.01.06 日本時間12時30分頃、アディ・ギル号が調査船第2昭南丸に衝突した (5.2MB)
  8. ^ 2010.01.08 New Zealand watercraft left drifting in Antarctic 漂流するニュージーランド船籍アディ・ギル号が放棄される
  9. ^ a b news.com.au, January 8, 2010, Ady Gil abandoned and leaking oil
  10. ^ Herald Sun, January 8, 2010, Govt can't guarantee legal action against Japanese whaling
  11. ^ 2010.01.08 南極海に流出されたアディ・ギル号燃料及び放棄されて漂流するアディ・ギル号。周囲の海にシーシェパード妨害船ボブ・バーカー号の姿は見えない。この映像は、第3勇新丸より日本時間12時(正午)頃に撮影 (5.5MB)
  12. ^ ABC News, January 8, 2010, Ady Gil sinks after whaling skirmish
  13. ^ Sea Shepherd Conservation Society, January 7, 2010, Rammed Vessel Ady Gil Sinks
  14. ^ Govt calls for restraint after ocean clash - The New Zealand Herald, Thursday January 7, 2010
  15. ^ Joliff, Emma (2010年1月8日). “Sea Shepherd captain 'devastated' by sinking”. 3news. http://www.3news.co.nz/Sea-Shepherd-captain-devastated-by-sinking/tabid/423/articleID/136574/Default.aspx 2010年1月8日閲覧。 
  16. ^ シー・シェパード高速艇沈没、自作自演だった : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) 2010年10月8日
  17. ^ シー・シェパード抗議船沈没は「自作自演」 ニュージーランド船長が暴露 - MSN産経ニュース 2010年10月8日

関連項目

外部リンク


アディ・ギル

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アースレース」の記事における「アディ・ギル」の解説

アースレース」は日本の調査捕鯨活動対す抗議実行しているシーシェパードに対して2009年から2010年にかけて予定され抗議活動ワルチング・マチルダ作戦)に同行するとした。 2009年10月17日支援合意し船名抗議活動スポンサーの名をとって「アディ・ギル」に改名されたと同時に船体も黒に塗りなおされた。 2010年1月6日南極海にて日本の調査捕鯨船「第2昭南丸」に突撃し乗組員6名は他の抗議船に救助された。衝突をめぐり、シーシェパード日本鯨類研究所双方衝突瞬間ビデオ公開し互い操船非難している。また、シー・シェパード側は、真っ二つになった発表したが、実際に即時沈没免れた。 アディ・ギルはフランス南極観測基地デュモン・デュルヴィル基地向けて別の抗議ボブ・バーカー号曳航されていたが、現地時間1月8日早朝放棄された。気象条件は船の引き上げ支障がないと当初報じられていたが、曳航過程浸水がよりひどくなっていた。衝突後の船体からの燃料漏れ目撃されていたことから、日本鯨類研究所はアディ・ギルの海上での放棄を、燃料による海洋汚染懸念される批判していた。 シーシェパード当初アディ・ギルは沈没した主張し沈没したことによって更なる抗議行動中断することはありえないとしていた。アディ・ギル喪失損失150ドルにのぼると見積もられるが、支援者は「アディ・ギル2」建造のために100万ドル寄付申し出ているとされる。 なお、2010年10月7日衝突事件時のアディ・ギル船長であったピーター・ベスーンラジオ・ニュージーランド出演しインタビュー答えたが、その中でベスーンは、アディ・ギルの沈没について、アディ・ギルは曳航可能な状態であったが、シー・シェパード代表のポール・ワトソン指示により、テレビ映えする刺激的な映像撮り世間同情を買うことを目的に、シー・シェパードがアディ・ギルを自ら沈没させ南氷洋放棄した偽善的な自作自演行為であったことを暴露している。

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