アクタック
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/02 04:18 UTC 版)
アクタック | |
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別名 | アラスカアイスクリーム、アラスカ先住民アイスクリーム、アラスカインディアンアイスクリーム、先住民アイスクリーム、インディアンアイスクリーム、エスキモーアイスクリーム |
種類 | デザート |
発祥地 | ![]() |
地域 | アラスカ |
考案者 | アラスカ・アサバスカン、イヌピアット, ユピック |
主な材料 | 干し魚または肉、油脂、ベリー |
アクタック[1](akutaq/akutuq、アグーダック [2][3])は、アメリカ合衆国・アラスカ州の先住民グループであるアラスカ・アサバスカン、イヌピアット、ユピックによって作られる伝統的な獣脂を使ったデザートである。
概要
アクタックはアラスカの先住民の言語でかき混ぜるという意味で、狩猟によって得た野生獣の脂肪と海獣の油を混ぜ合わせてフワフワになるまで泡立てることによって作られる[2]。フレーバーは主に2種類に分類され、乾燥させた野生獣の肉、生の魚、または干した魚を混ぜた野味に溢れたものと、採集したベリーを混ぜた甘味とアザラシの油の塩気を味わうものがある[2][3][4]。
狩猟・採集・漁撈から得る材料を使って作られることから、地域によって使用される材料にはさまざまな違いが生じる。アラスカ北部では、カリブー、ジャコウウシ、熊の脂肪や、そしてアザラシやクジラの油を使い、硬く泡だったアクタックが作られ、そのほかの内陸部ではカリブーと淡水魚が多く使われる。淡水魚には、シーフィッシュ〈インコヌ〉、アークティックシスコ、プロソピウム属などが含まれ、魚卵が使われることもある。沿岸部では海水魚やアザラシの油が使われる。南部ではロウソクウオと油、そして雪を混ぜたスノー・アクタック(snow akutaq)と呼ばれるものが作られ、このタイプのアクタックは、泡立て調理後に直ちに食しないとすぐ溶けて液状になってしまう儚いものである[2][5]。それ以外にも淡水魚・気水魚のノーザンパイク、ヘラジカ 、そしてセイウチも材料として使われる[5]。
ベリー類は、クロマメノキの実、ツルコケモモを始めとして特にコケモモが使われるが、その他にクランベリー、クマコケモモ、クロウベリー、サーモンベリー、クラウドベリー、ラズベリー、ブルーベリー、またはオオタカネバラの実も使われる。ベリーではないが、エスキモーポテトの塊根など、軽度の甘味料となるものも利用される。ツンドラに育つ葉菜を加えることもある[5]。
アクタックの最も一般的なレシピは、乾燥して粉砕したヘラジカまたはカリブーのテンダーロインを、ヘラジカの脂肪と混ぜ、その混合物が軽くフワフワになるまで泡立てる。冷凍せずにそのままで食べることも、冷凍して食べることもでき、後者の場合商業的なアイスクリームに似た食感になる[5]。
19世紀には、アクタックの味比べコンテストが開かれ、一般的な材料以外にも、獲物の血、ビーバー、ラッコ、カリブーの胃の内容物、鳥類の卵などの変り種がアクタックに混ぜ入れられることもあった[2][4]。
アクタックは一度に大量に作られ、永久凍土に作られた地下貯蔵庫で冷やし固められ、後日のために保存される。日常的な食事で食べられるほか、客人へのもてなしや祝いの席でも提供され、脂肪とタンパク質を多く含み高栄養なため、狩猟や長距離移動の際は携帯食としても利用される[2][3]。ユピックは、先祖も一緒に食せるように、食べる前にひとつまみのアクタックを火にくべる習慣がある[3]。また、アラスカン・アサバスカン・インディアン・アイスクリームの調理中には、かつて「アイスクリームソング」という歌が歌われる習慣もあった[6]。
材料を混ぜ合わせ泡立てるのには、伝統的には樺皮の容器と手が使われるが、時代とともに泡立て器、そしてその後にはフードプロセッサーや電動ミキサーが使われることも見受けられるようになって来ている[5][2]。電動器具がもたらされてからは、原材料の容量の6倍になるほどに泡立てられ軽やかなものも作られ、保存もフリーザーが地下貯蔵庫に取って代わった[2]。
生活環境の変化から、材料も狩猟で得た野生動物の脂肪に代わり、入手が容易な植物性のショートニングやオリーブオイルが使われたり、19世紀中期からは捕鯨漁師によってもたらされた砂糖をさらなる甘味として加えるようにもなった[2][4]。
狩猟・採集・漁撈は大変時間と労力がいる作業で、アクタック作りもさまざまな手順を踏まねばならず、作業には世代を超えて受け継がれていく知識が必要になる。若い世代は伝統食ではなく外部の食物に惹かれ、アクタックの伝統と文化は年々廃れている[2]。
なお、アクタックは、ブリティッシュコロンビア州のファースト・ネイションズによるカナダディアン・インディアン・アイスクリームであるスクシュム(sxusem)や、インド亜大陸のクルフィ(インディアン・アイスクリーム)と混同しないように注意が必要である。
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かつてアクタックを作っていた木製のボウル、Tumnaq
先住民間での名称
アサバスカ諸語 | アイスクリーム |
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アトナ語 | ? |
デナイナ語 | nivagi[7] |
インガリック語 | vanhgiq[8][9] |
ホリカチャック語 | nathdlod[9] |
コユーコン語 | nonaałdlode[10](直訳: 'クリーム状にしたもの、泡立てられたもの') |
上カスコクウィム語 | nemaje[11][12] |
下タナナ語 | nonathdlodi[6] |
タナクロス語 | nanehdlaad[13] |
上タナナ語 | ? |
グウィッチン語 | it’suh[14] |
ハン語 | ? |
ユピック・イヌイット諸語 | アイスクリーム |
イヌクティトゥット語 | アクタック(akutuq) (ᐊᑯᑐᖅ)[15] |
イヌピアック語(北部) | アクタック(akutuq)(直訳: '一緒に混ぜ合わせた/かき混ぜた') |
イヌピアック語(ベーリング海峡) | アグタック(agutaq)(直訳: '一緒に混ぜ合わせた/かき混ぜた') |
中央アラスカ・ユピック語 | アクタック(akutaq)(直訳: '一緒に混ぜ合わせた/かき混ぜた') |
アリュティーク語(北部) | アクタック、シスク(akutaq, sisuq) |
アリュティーク語 (南部) | アクタック、ピリナク(akutaq, pirinaq) |
関連項目
出典
- ^ “連載 世界の食を味わいつくす! 書籍『地球グルメ大図鑑』より - 動物の脂肪から作るエスキモーの「アイスクリーム」──アクタック(米国アラスカ州)”. ナショナル・ジオグラフィック (2023年7月12日). 2025年8月30日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j Spray Starks, Zona (2016-07-25). “What Is Eskimo Ice Cream? Answer: Not your typical summer dessert”. Smithsonian Magazine .
- ^ a b c d “Mix, Stir Up — Akulluku” (英語). Alutiiq Museum. 2025年8月30日閲覧。
- ^ a b c OBrien, Sam. “Akutuq”. Atlas Obscura. 2025年8月30日閲覧。
- ^ a b c d e Priscilla Russell Kari, Tanaina Plantlore, Dena'ina K'et'una (1987), p. 61.
- ^ a b “Keynote abstracts - HLK 2010, Lund University”. Conference.sol.lu.se. 2018年4月23日閲覧。
- ^ “Land Use and Economy of Lime Village”. Subsistence.adfg.state.ak.us. 2018年4月23日閲覧。
- ^ “Course: Deg Xinag Learners' Dictionary”. Ankn.uaf.edu. 2018年4月23日閲覧。
- ^ a b “ABCD”. Adfg.alaska.gov. 2018年4月23日閲覧。
- ^ “EFGH”. Subsistence.adfg.state.ak.us. 2018年4月23日閲覧。
- ^ The Upper Kuskokwim People and Gathering Plants in the Upper Kuskokwim Archived December 24, 2012, at the Wayback Machine.
- ^ “Whitefish Biology, Distribution, and Fisheries in the Yukon and Kuskokwim River Drainages in Alaska: a Synthesis of Available Information”. Rapidresearch.com. 2018年4月23日閲覧。
- ^ Tanacross Learnersʼ Dictionary Archived 2010-12-02 at the Wayback Machine. by I. S. Arnold, G. Holton, and R. Thoman (2009)
- ^ “Gwich'in Social & Cultural Institute”. Plants.gwichin.ca. 2012年12月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年4月23日閲覧。
- ^ “Nunavut — Food and Restaurants”. iExplore. 2022年1月13日閲覧。
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