その他の問題、および致命的欠陥
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/07/20 12:47 UTC 版)
「アルクビエレ・ドライブ」の記事における「その他の問題、および致命的欠陥」の解説
Van Den Broeckが示したようにエネルギー問題は計量の表式を改良することでクリアされる可能性が残されているが、ワープはその他にも様々な問題を抱えている。 まず、ワープバブルの作成方法が明確ではない。ここまでの議論はあくまでワープに必要な計量を先に仮定してそれが現実に存在し維持されるために必要なエネルギー量とエネルギー分布を一般相対性理論を用いて算出したに過ぎず、具体的にどうすればこのような特殊な形状の時空を作成できるのかには言及されていない。 次に、このようなワープバブルは内側から操作することはできない。超光速で移動するワープバブルの外部に制御装置を配置するならばその制御装置はミンコフスキー計量中を超光速で移動することになるし、そもそもD. H. Couleが指摘するように、バブルの境界面で f ( r s ( t ) ) ≠ 1 {\displaystyle f(r_{s}(t))\neq 1\,} なる領域を都合よく作り出すためにはまさにそのバブルの境界面から外にかけての領域に負のエネルギーを配置せねばならない。つまりアルクビエレが提案するそのままのワープバブルの原理では、エネルギー発生装置をバブル内に配置するとしても超光速状態でバブルの形状を維持するには発生させたエネルギーがバブルの外で超光速的に走らねばならず、バブルを維持できなくなってしまう。その問題は計量の作り方を変更することで回避されるかもしれないが、その次にはRobert J. Lowが指摘するように、バブルの前面には事象の地平面のような因果的に隔絶された超曲面が形成され、いずれにせよタキオンのようなミンコフスキー計量中で超光速を実現する相互作用でなければ影響を及ぼせないという問題が待ち構えている。そこから導かれる結論として、ワープバブルの移動に先行してバブル前方の時空を書き換える一般相対性理論的な時空の変化は膨張にせよ収縮にせよ歪みの無いミンコフスキー計量を光速度で伝播する重力波によって行われるため、バブルの移動が光速を超えるとバブルの前面に時空の変化を及ぼすことができなくなり、ワープバブルを用いても加速は光速で頭打ちになってしまう。ワープする計量もまた時空を伝わる波なのだから、音波が超音速で伝わらないように波が伝播する背景の時空の伝播速度は超えられないというわけだ。しかし、時空の変化が歪みの無い時空における光速度で伝播する場合にも、線形解析を用いる手法では外から見て光速が速いバブルの内部と光速が遅いその外部との接続が滑らかでない不連続面(衝撃波面)を生み出す可能性が残るため、バブル前面に関する考察を簡単に切って捨てるべきではないと言う指摘もあり、さらにこの部分に非線形解析や量子力学的手法を用いることでホーキング放射のようにバブル外へのトンネル効果的なしみ出しを生じさせ、超光速的なバブル作成を実現する可能性もまだ残されてはいる。また、もしかしたらこれもバブル前面の時空の接続方法を上手く取ることで解決されるかもしれない。このようにバブル前面に関する議論はワープバブルの超光速的な移動に原理的に制限をかけてくるため、解決の困難さはエネルギー問題の比ではなく、計量の局所変化の伝播によるワープを考える上で現状最も致命的な問題である。これらの問題が指摘されて以後、Van Den Broeckはアルクビエレ・ドライブについていくぶん否定的な立場に回っている。 また、因果律的な問題も残っている。前述のようにアルクビエレが選択した計量の形は因果律が閉じないように配慮されているが、計量の作り方においては因果律が閉じるような計量の設定も計算上は制限されない。仮にもっと効率的なバブル型の計量やワームホール型などの他の超光速的移動を可能とする実用的計量が考案されたとしても、それを用いた出発点との往復経路に慣性加速などの多少の変更を加えることで因果律が閉じ、ワープ宇宙船がタイムマシンと化してしまう場合は「親殺しの問題」などの因果律を根底から覆しかねない物理学的に非常に好ましくない問題が生じてくる。もしも物理学的にタイムトラベルが実現するのであればその時はその時で現実に観測される結果に従うことになるのだが、しかし現状ではこのような因果律が混乱する事態はまず有り得ないと見られており、しかもタイムトラベルという結果を導くような計量は不安定ですぐに破壊されてしまうものが多く、ワープ計量を設計する上ではこのような結果を内包する要素は排除することが望ましい。 以上のような問題は、「エネルギーを配置してからその周りの時空変化を算出する」というアインシュタイン方程式の適正な解き方を、「このような時空を仮定すればエネルギーはこうなり因果はこうなる」と筋道だててある意味誤った方向に解いたために生じたものである。すなわちこれら種々の問題が解決されるべき保証は無く、全く筋違いのことを議論している可能性すらある。地に足が着いていない所から理論が展開されている以上、全てが誤りである可能性も常に心に留め置かねばならない。
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