『摂政委譲』
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「マリー・ド・メディシスの生涯」の記事における「『摂政委譲』」の解説
ルーベンスは『マリー・ド・メディシスの生涯』全作品の制作時を通じて、論争を引き起こした出来事の絵画を描くときには、マリーとアンリ4世双方の機嫌を損ねないように細心の注意を払った。マリーはルーベンスに、自身の生涯をありのままに描くよう依頼したが、ルーベンスは寓意や象徴に紛らわせた巧妙な表現を用いている。しかしながら、一度ならずルーベンスの宮廷画家としての自由裁量が、マリーを正しく評価するような絵画を描くようにという理由で制限されたこともあった。この『摂政委譲』は、アンリ4世が暗殺される少し前に、マリーがフランス摂政とドーファン養育をアンリ4世から一任されたときの情景を描いている。豪華なイタリア風建築物を背景にして描かれたこの作品は、当初描かれる予定だった構成と若干異なった内容で描かれた。マリーの右隣には、自信を象徴する蛇に裸にされている「賢明」の寓意である女性プルーデンス (en:Prudence) が描かれることになっていた。これは、アンリ4世の暗殺にマリーが関与していたのではないかという当時の噂を打ち消すためだった。しかしながらこの描写は、マリーには何らやましいところはないということを確実なものにするために変更された。また、アンリ4世の背後から、その運命、戦い、そして死を告げる3柱の運命の女神パルカも除去されている。描き直しを余儀なくされたルーベンスは、パルカの代わりに3名の兵士を描き入れた。 この『摂政委譲』の特筆すべき点に、オーブ(球体)を「一国全てに対する支配、権力」を意味するシンボルとして最初に描いたことが挙げられる。ルーベンスはオーブを『マリー・ド・メディシスの生涯』の連作の四分の一にあたる6点の作品に描き入れた。ルーベンスが描いたオーブは、古代ローマで皇帝の領土と権力を意味した「大地のオーブ (orbis terrarum)」の暗喩で、フランス君主が古代ローマ皇帝と同等以上の存在であることを示唆しているのである。また、ルーベンスはオーブが伝統的に持つ寓意も確実に意識しており、大きな効果をこの作品に与えている。本作品以降の連作に描かれているマリーとその側近が引き起こす出来事の序章であるとともに、マリーのフランス摂政時代が壮大な寓意に満ちた政治的意図のもとで作品に描かれていることを、このオーブが伝える役割を果たしているのである。
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