「ワクチン・オーバーロード」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/19 18:18 UTC 版)
「ワクチン忌避」の記事における「「ワクチン・オーバーロード」」の解説
「ワクチン・オーバーロード」 (vaccine overload, ワクチンによる過剰負荷) は医学用語ではない。多くのワクチンが一度に投与されることで子供の未成熟な免疫系が打ち負かされたり弱められたりし、悪影響が引き起こされるという考え方である。科学的なエビデンスはこの考えと強く矛盾するが、自閉症の子供を持つ親の一部はワクチン・オーバーロードが自閉症を引き起こすと信じている。その結果引き起こされた論争によって、多くの親が子供への予防接種を遅らせたり避けたりするようになった。このような親による誤解は子供への予防接種の大きな障壁となっている。 ワクチン・オーバーロードの概念には、いくつかのレベルでの欠陥が存在する。ここ数十年でワクチンの数は増加しているものの、ワクチンのデザインの改善によってワクチンによる免疫への負荷は低下している。2009年にアメリカ合衆国の子供に投与されている14種類のワクチンに含まれる免疫学的構成要素の総数は、1980年に投与されていた7種類のワクチンに含まれる総数の10%以下である。2013年に発表された研究では、子供が2歳までに投与されたワクチンに含まれる抗原の数と自閉症の間に相関関係は示されなかった。調査対象の1008人の子供の4分の1が自閉症児であったが、彼らが生まれた1994年から1999年の間の定期的な予防接種スケジュールには3000以上の抗原が含まれていた (1回のDPTワクチンだけでこれだけの抗原が含まれていた)。2012年の予防接種スケジュールはより多くのワクチンを含んでいるが、子供がさらされる抗原の数は315種類である。ワクチンによる免疫負荷は、子供が1年間に自然に遭遇する病原体による負荷と比較して極めて小さく、発熱や中耳炎といったありふれた状況のほうが免疫系に対する大きな脅威となる。また、予防接種は、複数の同時接種であっても、免疫系を弱めたり全体的な免疫に害を与えたりしないことが複数の研究によって示されている。ワクチン・オーバーロード仮説を支持するエビデンスは存在せず、また直接的に矛盾する知見が存在することから、現在推奨されている予防接種プログラムは免疫系の過剰な負荷となったり、免疫系を弱めたりすることはないと結論付けられる。 子供にワクチンの接種を控えさせる実験は、いかなるものであっても非倫理的であると見なされている。また、観察研究はワクチン接種を遵守していない子供の受療行動の差という交絡因子の影響を受ける。そのため、予防接種を受けた子供と受けていない子供における自閉症発生率の直接比較を行った研究は存在しない。しかし、予防接種を受けた子供も受けていない子供もワクチンと無関係な感染に対して起こる免疫応答は同じであること、自閉症は免疫疾患ではないことなど、ワクチン・オーバーロードという概念は生物学的妥当性を欠き、ワクチンが免疫系の過剰負荷によって自閉症を引き起こすという主張は現在の自閉症の病因に関する知識と対立する。このように、ワクチンが自閉症を引き起こすという考えは、現在のエビデンスの重みによって事実上却下される。
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